【「本が好き!」レビュー】『囀(さえず)る魚』アンドレアスセシェ著
提供: 本が好き!物語の主人公は、アテネに住むヤニスという本の虫の男性です。
とにかく本が好きで、書店に行く時には必ず入浴して身を清めてから出かけ、書店に行くまでの道のりを楽しみたいがためにわざわざ遠回りして向かうような男性です。
途中の公園で見かけるカフェの女性店員に憧れながらも声をかける勇気も持てないような男性でもあります。
ある日、古びた古書店のような店を見つけ、吸い寄せられるように中に入って行きます。
店内は薄暗く、本が大量に置いてあるというのにろうそくが立てられていたりして、危なくないのかななどと思います。
書店にいたのはリオという魅力的な若い女性で、彼女は本を売るつもりもないのか、ヤニスを相手にして本談義を始めます。
ヤニスも本が大好きなので、その話に引き込まれ、また、リオに恋をしてしまうのです。
他方で1907年のロンドンの様子が挿話的に差し込まれます。
ここでは、アーサーという男(それが誰なのかは物語の後半に分かります)が、何かの秘密を握っていると思われるフレッチャーという友人の口を塞ぐため、毒殺することを企てています。
唐突に挟み込まれるこの挿話はどういう意味があるのでしょう?
物語の大部分は現在のアテネを舞台にして続いていきます。
ヤニスは、すっかりリオの虜になってしまい、足繁く不思議な書店に通ってはリオと会話を楽しみます。
その過程で、両足が裸足で足から血を流している不思議な少女に出会ったり、これまた裸足でマッチを売っている少女に出会ったりし、それぞれの少女から謎めいた話をされます。
幻想的な雰囲気の中で、一体これはどういう話なのだろう?と読者を煙にまきつつ話は進んでいきます。
リオが話す本の話には、有名な作品や作家が沢山出てきますので、本が好きな読者には楽しい話になるでしょう。
ヤニスは完全にリオにやられてしまい、ある日、リオに思いの丈を告白する決意をして店に向かいます。
ところが、リオの姿はどこにも見あたらず、店の床には書棚から落ちたと思われる本が散らかっていました。
また、店の奥には紙で作られた妖精の切り抜きのようなものも見つかります。
何かのトラブルがあってリオはどこかに姿を消してしまったのでしょうか?
店の中で呆然としているヤニスの前にエインという竪琴を背負った男性が現れ、これまた謎めいたことを言います。
リオにはもう二度と会えないということなのでしょうか?
現実と幻想、現代と過去を行ったり来たりするような不思議な展開のこの作品、最後にはアーサーが誰のことなのかが読者にも明らかになります。
有名作家や有名作品が数多く登場する作品で、その中には虚実ない交ぜの作家に関するエピソードなども織り込まれています。
大体、アーサーの一件がそういう話ですし。
非常に不思議な感触を持った、本好きの人を狙ったような作品でした。
(レビュー:ef)
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