もはや“点”にしか見えない! 日本でつくられた「世界で一番小さい本」を検証する
■日本のワザが光る「世界一」の本
世界一の称号は否応なしにスゴイものだ。
世界一高い山「エベレスト」(8848m)は、富士山(3776m)のおよそ2.6倍の標高を誇る。
登山家の三浦雄一郎氏は、そのエベレストを80歳223日で登り、エベレストを制覇した最高齢の人物としてギネスブックに認定されている。
三浦氏のように数多ある「世界一」には、日本がその座を得ているものもある。
特に、モノづくり大国ニッポンと呼ばれるだけに、製造の分野でギネスブックに「世界一」と認定されているものは多い。
たとえば、「世界一製造数が多いバイク」は、お蕎麦屋さんでおなじみのホンダ「カブ」シリーズで、累計5000万台以上。
愛知県にある樹研工業の「極小歯車」は、重さ100万分の1グラム、直径0.147ミリ、幅0.08ミリという代物で「世界一小さい歯車」として認定されている。これは目に見えないほど小さいが、目を見張るに値する。
このような日本の「世界一」は、世界でも群を抜いた技術力の賜物だろう。
――その技術力は、書籍にも発揮されているのではないだろうか?
そう思って調べたところ、やはりあった。
なんと、「世界一“小さい”本」が日本でつくられていたのだ。
その本とは、2013年に凸版印刷が発表した『四季の草花』という書籍。
驚愕すべきそのサイズは、縦・横・奥行きがすべて0.75ミリ。
全22ページで、四季の草花のイラストと名前が印刷されており、ギネスブックが認定する「世界一小さい本」なのである。
■世界一“小さい”本を検証してみる
「0.75ミリ」というサイズはどれほど小さいのか。身近なものと比較してみると、そのスゴさがわかる。
炊く前の米粒が、およそ高さ5ミリ、幅3ミリ。
一円玉の厚さが、1.5ミリ。
手芸用の極小ビーズが、直径1ミリ。
実際に写真で見てみれば、その小ささがわかってもらえるだろう。
(Copyright 2013 Printing Museum,Tokyo, TOPPAN PRINTING CO., LTD.)
ルーペの上に白い円盤上の台があり、そこに金色の金具がある。
その金具の横に、小さな点が見えないだろうか。
これが本なのだ。
拡大した写真もあるので見ていただこう。
(Copyright 2013 Printing Museum,Tokyo, TOPPAN PRINTING CO., LTD.)
画面に大きく写っているのが、縫い針の頭。
その下に見開かれているのが『四季の草花』である。
小さいが、中にはしっかりと草花のイラストと名前が書かれている。
まさに日本の技術力の高さがあってこそ実現できたサイズの書籍であろう。
■個人的考察による「本書の活用法」
この本は一般に販売もされている。
値段は、ルーペや肉眼でも読めるサイズのレプリカ等を含め3万240円(税込)。東京都文京区にある「印刷博物館」にあるミュージアムショップで売られている。
「小さい」という特性を突き詰めた本書は、やはりコレクターズアイテムとしての意味が強い。
しかし、本である以上は、「読む」という目的もあるはずだ。
そこで、この書籍を読む際には何に注意すべきかを考えてみよう。
まず何よりも、恐れなければいけないのはクシャミだ。
**読書の際にうっかりクシャミでもしようものなら、どこかに飛んでいってしまい、探すのにはかなり難儀することだろう。**花粉症の方は、必ずマスクを着用することをオススメする。
しかし、一般的な花粉症マスクなどでは少々心もとない。
クシャミの初速はF1マシンや新幹線と同程度の時速300km以上もあると言われている。
その勢いで口から出る空気がマスクの端から漏れたら、それだけで本が飛んでいってしまう可能性がある。
やはり、口元をしっかりと保護し、空気が漏れ出る心配のない防塵マスクなどを着用することが理想的だ。ある程度の気密性があるマスクなら3000円程度で購入することができる。
また、その小ささ故、手でページをめくることができない。
本書を読む際はピンセットが必須になるだろう。
しかし、一般的なピンセットではページをめくるには先端が太すぎる。
オススメするのは、エンジニアや研究者が使うような極細精密ピンセット。
先曲がりしたタイプのピンセットで、先端が鋭く尖ったものが理想的だ。
こちらも2000円あれば、かなり実用的なものが購入できる。
また、気になったページや読みかけのページに挟む栞は、読書には必須のアイテムだ。
当然、本書には一般的なサイズの栞は向かない。
0.75ミリの厚さで22ページある本書は、単純計算で1ページ0.034ミリとなる。
やはり、栞として使うなら同じくらいの厚みのものが良いだろう。
0.03ミリと言えば、避妊具がそのくらいの薄さではあるが、加工をしなければ栞として活用するのは少々難しい。
加工をしないで使える、極細のもの――それはじつに身近にある。髪の毛だ。
日本人の髪の太さは平均で0.07ミリだが、細い髪質の人なら0.03~0.05ミリ程度。
自分の近くにいる細い髪の人から一本拝借すれば、お金をかけずに入手できるだろう。
これらの注意点に留意し、アイテムを用意すれば、『四季の草花』を読むための本として楽しむことができるはずだ。
小さな本の中に、外の広い世界を想像させる情報が詰まっているとは、なんともロマンがある。
日本の技術力、そして、『四季の草花』は、そんなロマンを感じさせてくれる「世界一」だ。
ぜひ一度、実際の本を「印刷博物館」で見てみてほしい。
(ライター:大村佑介)