【「本が好き!」レビュー】『本を読むひと』アリス・フェルネ著
提供: 本が好き!パリ郊外の空き地に住み着いたのは
家長であるアンジェリーヌばあさんと5人の息子に4人の嫁、
8人の孫というジプシーの大家族。
電気も水道もなく
一日中たき火を焚いて営む暮らし。
近隣の住民は鼻をつまみ
何とか立ち退かせようとするが
なにを考えたのか地主が動かないので
役所も手を出せない。
仕事を持たない働き盛りの年代の男たちは
ときおり泥棒をして“糧”を得る以外は
日がな一日ぶらぶらしている。
忙しいのは女たち。
食事の支度に洗濯に、子どもの面倒だけでなく、
夫の面倒まで見なければならない。
おまけに始終、妊娠している。
行政がその存在すら認めないこの家族の元に
ある日やってきたのがエステール。
なんでも図書館員だという。
毎週水曜日に本を携えて通ってくるようになった彼女は
読み聞かせを通じて子どもたちと親しくなり、
次第にアンジェリーヌばあさんも、
続いて嫁たちも、ついには男たちも
彼女の来訪を待ちわびるようになるのだが……。
原題は Grâce et dénuement
直訳すると「恩寵と貧困」という意味だというこの作品は、
発表後20年経った今でも読み継がれているフランスのロングセラーなのだという。
“恩寵”が何をさすかはさておいて
“貧困”についてはかなり具体的に書き込まれている感がある。
その描写がしんどくて、
中盤までなかなかペースがあがらなかった。
物語の舞台は、現代より少し前で
現在のフランスでは状況はそれなりに改善されてはいると
訳者の解説にもあるけれど
依然として残っているであろう様々な問題に思いをはせると共に
ロマの人々の問題だけでなく
世界各地で繰り返されている“貧困の連鎖”についても
ついつい考え込まずにはいられない。
本は確かにある程度の救いをもたらすかもしれない。
なにかのきっかけにはなるかも知れない。
でも“解決”にはならないのだと
本を抱えて訪れるエステールも
彼女の来訪を待ちわびる家族も
著者も読者もわかっている。
わかっているからこそのしんどさが、
物語には否応なくつきまとう。
一人の女性がそこから立ち去ることを決意する。
その前途は決して明るいわけではなかろうが、
そしてまた世間との“同化”が解決だとも思わないが
それでも、物語が大きく動き始めたとき
私は思わずホッとしてしまったのだった。
(レビュー:かもめ通信)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」