だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『書くことについて』スティーヴン・キング著

提供: 本が好き!

一昨年読んだ『読んだら忘れない読書術』という本で紹介されていた1冊です。
しばらく積読状態だったのですが、今年のテーマである「読み書きスキル向上」を意識して、読むことにしました。

正直に言うと、スティーヴ・キングさんの小説は1冊も読んだことがありません。
映画の原作者として、よく名前が出てきますよね。
アメリカのベストセラー作家が、「書くことに」について、何を考えているのか。
小説を書くつもりはありませんが、何らかの文章を書くにあたり、参考になる点はあると思い、興味を持ったわけです。

本を読む時は、「まえがき」はもちろん、「あとがき」を先に読むことで、要点をつかむことができます。
特に翻訳本では、「訳者あとがき」がその本を上手くまとめてあり、全体像をつかむのに最適なことが多い。
この本では「訳者あとがき」が、目次の役割も果たしており、最初に読むことをお薦めします。
「訳者あとがき」に書かれている本書の構成は以下のとおりです。

 1.履歴書
 2.道具箱
 3.書くことについて
 4.生きることについて
 5.閉じたドア、開いたドア

「履歴書」は著者の半生の回顧録です。
ここでは「ひとりの作家がどうやって自分をつくりあげていったかということ」が書かれています。
スティーヴン・キングさんのファンには、大変興味深い内容ではないでしょうか。
逆に、僕のように1冊も読んだことがない人間にとっては、少し退屈な内容でした。

「履歴書」と「道具箱」の間には、「書くこととはー」という、短い章があります。
ここでは、読者の覚悟が問われます。
「いい加減な気持ちで書くことだけは許されない」
このことを真摯に受け止められなければ、この本を閉じて、他のことをしたほうがいいと著者は言います。
これは、小説家になりたいのであればと受けとめておきましょう。

「道具箱」の章が、小説以外の文章にも、最も参考になりそうです。
ここでいう「道具」は、ものを書く時に必要な「知識」のこと。
道具箱の最上段に入れておくものとして「語彙」「文法」、二段目には「文章作法」といった感じです。
その中で印象的だったのが、「下手な文章の根っこには、たいてい不安がある」という著者の指摘。
これは、誰もが経験していることではないでしょうか。
その不安を拭い去るためにも、道具箱を充実させる必要がありそうです。

この本のメインである「書くことについて」では、著者の小説作法について書かれています。
この章については、以下の引用を紹介するのみとしておきます。
具体的な小説作法に興味がある人は、本書をお読みください。

作家になりたいのであれば、絶対にしなければならないことがふたつある。たくさん読み、たくさん書くことだ。私の知るかぎり、そのかわりになるものはないし、近道もない。

「生きることについて」では、著者が事故に会った経験が書かれています。
命を落としていてもおかしくない事故だったようです。
その経験を経て、著者は「私は書くために生まれてきた」と言います。
そして、印象的な次の文章に続きます。

ものを書くのは、金を稼ぐためでも、もてるためでも、セックスの相手を見つけるためでも、友人をつくるためでもない。一言でいうなら、読む者の人生を豊かにし、同時に書く者の人生も豊かにするためだ。立ち上がり、力をつけ、乗り越えるためだ。幸せになるために書くのだ。おわかりいただけるだろうか。幸せになるためなのだ。

以前記事を書いた『「好き」を「お金」に変える心理学』の内容を思い出しました。
「好き」を「お金」に変えるとは、こういうことを言うのでしょう。

「開いたドア、閉じたドア」では、原稿の見直し作業の実例が紹介されています。
英文と訳文の両方が示されていますが、ここは英文で読みたいところですが、訳文でも十分に見直し内容が理解できます。 登場人物の名前を短くするということも含まれており、「まずは書いてみる」ということの重要性を感じます。

全体的に、小説以外の文章でに参考になる点は多かったです。
小説家になりたい人はもちろん、何であれ「書くこと」を職業にしたい人は、多くの教訓を得ることができる1冊だと思います。

(レビュー:さあいわ

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
『書くことについて』

書くことについて

ベストセラーを次から次へと生み出す、アメリカを代表する作家が、自らの「書くことについて」を解き明かしした自伝的文章読本。作家になるまでの苦闘物語から始まり、ドラッグとアルコール漬けの作家生活を語る半自叙伝の回想。書くために必要となる基本的なスキルの開陳。いいものを書くための著者独自の魔法の技。そして「書くことと」と「生きること」を重ね合わせる作者自身の人生観まで。ひとりの作家の「秘密」がそこかしこに語られるドキュメンタリー。

この記事のライター

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