だれかに話したくなる本の話

中村うさぎとマツコ・デラックスに質問した。「読書って本当に必要ですか?」

“「読書」は無条件で良いことだとされているけれど、本を読む必要性は一体どこにあるのだろうか?”

先日、30代の知人からこんな「禁断の質問」を投げかけられた。確かにさまざまな人が読書の利点について述べているし、読書をすべきという考えは当たり前のように存在しているが、その回答はまさに人それぞれ。答えはその人の中にしかない。

実は、読書の必要性について聞かれたことがあるのはこれが初めてではない。その度に自分の考えていることを述べるのだが、それが正しいかどうかは分からない。

では、あの二人ならこの質問にどう答えるのだろうか? 『サンデー毎日』で本音と毒舌、至言まみれの人生相談を連載中の中村うさぎさんとマツコ・デラックスさんだ。

『信じる者はダマされる うさぎとマツコの人生相談』(毎日新聞出版刊)は、読者からの質問に中村うさぎさんとマツコ・デラックスさんが対談形式で答えていく形で進んでいくが、それにならって二人に以下の質問を投げかけてみた。

二人はどのように回答したのか?
(以下敬称略)

 ◇

「よく読書をしなさいとか、読書をすることが成長につながるという話を聞きますし、会社でも日常でも本を読むことを勧められます。もちろん『火花』のようなベストセラーは買いますが、それよりもネット上のコラムやニュース、まとめサイトを読んでいた方が楽しいですし、同世代との話も盛り上がって役に立ちます。実際周囲はそんなに本を読んでいる印象がないし、本を読むのはあまり意味がないのではないかと思うのですが、読書って必要だと思いますか?」(32歳・男性)

 ◇

マツコ・デラックス(以下、マツコ):すごいことを聞いてくる人がいるわね…。必要があるかと言われれば、必要があるものなんてこの世にはないのよ。

中村うさぎ(以下、うさぎ):でもさ、この人が本の代わりにあげているものがまとめサイトだったりするわけじゃない。私はまとめサイトとかネットニュースばかり読んでいると、読解力が衰えてくるんじゃないかと思うんだよね。

本って一冊が長いけど、テーマやメッセージをはっきり言ってないものも多いでしょ。小説だとメタファーにまみれている。その中からメッセージを感じとったり、読解したりする力を身に付けるわけで、それはまとめサイトを読んでも出来ないんじゃない?

ツイッターを見ていても、140文字で短いじゃない。だから前後の文章とつなげて書いているのに、その一部のつぶやきがリツイートされたがために、前後の文脈を読みとらないで批判している人を見かけるのね。そうなると本当に言いたかったことがちゃんと伝わらないまま批判されたりするじゃない。これはどうかなと思うことがあるよね。

ネットのコミュニケーションについて、マツコはどう思う?

マツコ:私はネットもあまりやらないし、本も読まないから、質問の意味が分からないの。その人にとって、読書の代わりがまとめサイトになっているの?

――本を読むよりも、ネット上にあるコンテンツのほうが楽しくて役に立つと言う話はよく聞きますね。

うさぎ:実用的って意味だよね。「人生とは何か」を問うものじゃなくて。

マツコ:じゃあそうすれば? 読書って、とても趣味的な要素が強いものだと思うの。その人のこだわりだったり、生き方だったりがあらわれるじゃない。

私はあまり本を読まないけど、影響された本というのはあるのね。そういう力を持っているのが本じゃない。人生観だったり、明日から何かしようとか、そういう動機になるものに出会えるものだと思うの。

でも、まとめサイトは世間話よね。本を読むよりもまとめサイトの方が楽しいって比べている時点で根本を履き違えていると思うわ。
 

■2人が2016年ベストセラーランキングで気になった本とは?

――回答ありがとうございます。ここからはお二人に出版業界の話題についてお聞きしたいと思います。こちらは、日販調べによる2016年のベストセラーランキングなのですが、気になる本はありますか?

うさぎ:私はこの中だと、3位の『ハリー・ポッターと呪いの子』くらいしか分からないわね。

マツコ:すごいわよ、『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』が6位に入ってる!(笑)

うさぎ:本当だ! みんなそんなに開脚したいの?

――「股割りブーム」が到来しているんですよ。

マツコ:股割り!? みんな、そんなにアクロバティックな体位でやりたいのかしら。何のために股割りがしたいの?

――股割りは体が柔らかいことの象徴ですから、身体の柔軟性を鍛えたい人が多かったということでしょうか。

マツコ:柔軟性を鍛えたいの? でも、(著者の)Eikoさんはこの本がこんなに売れるとは思っていなかったでしょうね。

――また、「新刊JP」はビジネス書や実用書の読者が多いのですが、2016年は「超一流」や「最強」といった言葉がタイトルに入ったり、「今すぐやる」というテーマで書かれた本が人気でした。

うさぎ:今はそういうビジネス書が読まれているんだ。ビジネス書といえば、昔、指名していたホストが「30歳までに1億貯める方法」みたいな本を買ってきたことがあって、「こいつバカだな」と思ったことがあるわよ。そんな方法あったらみんな貯めてるわ!って(笑)

マツコ:でも、ネットで「金儲けの方法を教えます」っていうバナー広告があるんだけど、それをクリックすると、さんざん長文を読まされたあげくに最後、「もっと読みたかったらお金を払え」って書いてあるの。

私、興味本位で一度注文してみようかなと思っているのよ。何が見られるんだろうって思っていて。もちろん本気でお金を儲けたいわけじゃないわよ。

うさぎ:それは本なの?

マツコ:本じゃなくて、ネットで販売しているものがあるのよ。昔、雑誌の裏に札束風呂の写真が載っていたじゃない。あれに毛が生えた程度のものだと思うんだけどね。

――実はネット上では貯金や投資などのお金のネタって鉄板です。とても目が引きますし、読まれる率もすごく高い。

うさぎ:そう聞くと、価値観が硬直しているように思えるね。金持ちになったら幸せになれるっていうのは昔からあるけれど、人生の成功ってお金を儲けることなの? ってツッコミを入れたくなるの。

マツコ:本当にそうよね。あと、バナー広告でよく出てくるのが、チ○コを大きくするサプリね。20センチ超えるっていうのよ。でもさ、もちろん小さすぎるのは困るかもしれないけれど、20センチもあったら逆に大変よ。

うさぎ:金とチ○コの大きさだけで幸せになれたら苦労はしないわよ。だから価値観の硬直は不快だし、チ○コが小さくても幸せになれる…ってこれ、記事にできる?

――頑張ります(笑)。でも、すごく本質的なお話だと思います。お金もペニスも男性にとって最大のコンプレックスをくすぐる部分ですし、そこにお金を出す仕組みが出来てしまっているということは、うさぎさんのおっしゃる通り、価値観の硬直と言えると思いますね。