【「本が好き!」レビュー】『落語的学問のすすめ』桂文珍著
提供: 本が好き!こんな講義が受けたかった!
出版当時、初読時は「将来大学に行ってこんな講義が受けたいなぁ」と小学生ながら思っていたので、時を経ても結局同じ感想というのも 事実としてそういう講義には出会えなかったという事の裏返しで切なくなってしまいました。
なぜ学生時代にもう一回読まなかったのか、と今更思ったりもしました。
落語家が大学で教えるー。当時関西では物凄く話題になりましたが、著者が関西大学で講師を務めた講義の1年目前期の内容をそのまま収録したものです。
内容は落語家らしく笑いに関することから、人生訓、哲学的なこと、古典芸能に絡めて言葉の語源などなど多岐に渡りますが いずれも堅苦しくない話口でスッと入ってきます。
「落語家は物事を俯瞰で見る姿勢がないと成り立たない」と講義の中で語られていますが、物事をを俯瞰して捉える力、分析する力、自分に落とし込んで尚且つ人に伝える力。 それらをすべて備え、軽い語り口で笑いを交えながら伝える著者の非凡さを感じる1冊です。
実際講義が行われたのはおそらく昭和63年。生活環境も随分変わりましたが、著者が分析している事が的確であることが多々。
チクリとした皮肉、指摘も笑いに包んで有りますがキッチリ入っています。
自分が関わるからこそ 講義を取り上げたメディアを取り上げての「映像はどうとでも映る。見る側が真実を見極めなければ」という一言。サラッと話されていますがこの当時これを伝えていらっしゃるとは。
BS放送が漸く始まったもののまだ2つのチャンネルしかない時代。テレビの未来を憂えていらっしゃる指摘も的確で、著者は当時からソフトの劣化を感じていらっしゃったというのも改めて読んでビックリです。。
決して「漫談」ではない「講義」。
笑いに関する分析も納得、芸人さんに限らず有名人のお名前、エピソードも色々出てきて 上の年齢の方はより懐かしいと思います。ダウンタウンがまだ漫才をしている時代っていうのも時を感じます。
タイトルは堅そうだけど気楽に読めます。
ただ、前記したように講義をそのまま記したもの、全編関西弁で話されたものがそのまま収録されています。関西人の私は全く違和感なく読めますが、他の地域の方は苦手とされる方もいらっしゃるかもしれません。
(レビュー:かなめ)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」