でんぱ組.inc夢眠ねむが「女性として読めてよかった」と絶賛する本とは?
内容を問わず、書籍タイトルの秀逸さ、面白さのみを基準にして表彰する「日本タイトルだけ大賞」。
“ほぼ2016年”を対象書籍にした第9回日本タイトル大賞は、12月8日に最終選考会がニコニコ生放送で放送され、視聴者投票の中から『パープル式部』(フォビドゥン澁川作、集英社刊)が選ばれた。
さて、この「日本タイトルだけ大賞」、ノミネート作品を見ると、とにかく1つ1つのタイトルのインパクトが強い。大賞の最終候補に選ばれた9作品を並べても、この秀逸さである。
『おじいちゃんもう一度最期の戦い』
『ライオンはとてつもなく不味い』
『微分、積分、いい気分。』
『あなたも死なない人間になりませんか』
『パープル式部』
『コップとコッペパンとペン』
『結局、人は顔がすべて』
『ぼくはイスです』
『10分後にうんこがでます』
〔→第9回の全ノミネート作品はこちら〕
一つ一つに感嘆や笑いが起こるタイトルの読み上げを第8回から担当しているのが、アイドルグループ・でんぱ組.incの夢眠ねむさんだ。
読書好きとして知られ、書籍メディアで本にまつわる連載を持っているほか、多摩美術大学卒業の経歴から美術家としての活動も広げており、11月に出版した作品集『まろやかな狂気―夢眠ねむ作品集』(マーキー・インコーポレイティド刊)は3刷を達成するなど好評だ。
今回の大賞では、審査員各人が選ぶ個人賞で『いいにおいのおならをうるおとこ』を選んだ夢眠さん。惜しくもノミネートは逃したが『まろやかな狂気』も話題になった「第9回日本タイトルだけ大賞」の総括をお願いした。
■「タイトルだけ大賞」は1年に1日限りの「下ネタを言っても良い日」
――「第9回日本タイトルだけ大賞」の選考会、お疲れさまでした。まずは大賞に選ばれた『パープル式部』についての感想から教えて下さい。(*注:取材は「タイトルだけ大賞」の終了直後)
夢眠:『パープル式部』(笑)! 下ネタに絡んだタイトルが注目を集めやすい中で、少しインテリ感のあるタイトルが選ばれた印象なのですが、でもよく考えてみると「なんでそこを英語にしちゃったの!?」っていうツッコミも入れられるタイトルですよね。昔の言葉と今風の言葉を掛け合わせた、選ばれるべくして選ばれた作品だと思います。
――『パープル式部』は語感も良いですよね。
夢眠:そうなんですよね! 「紫」を「パープル」にすることで、言いやすくなっている部分もありました。まだ読んでいないけれどすごく気になるタイトルです。
――夢眠さんはタイトルの読み上げも担当していますけど、今年決選投票に進んだ3作は長いタイトルではなくて、とてもテンポの良い短いタイトルでした。(*注:3作は『微分、積分、いい気分。』『パープル式部』『コップとコッペパンとペン』)
夢眠:そう、短かったんですよ。読んでいて、すごく語感が良くて、すっとハマる。キャッチコピーの力が詰まったタイトルが選ばれました。
絵画の世界にも通じるんですが、タイトルって短い言葉の中にどれだけ余韻を詰め込めるかというところが大事だと思うんです。「タイトルだけ大賞」の場合、その余韻が笑いだったり驚きだったりの要素が多くなるけれど、言葉の長さとしては今年くらいの長さが本来の姿なのかなと。
――今年の「夢眠ねむ賞」をニコニコ生放送中に発表する際、「事務所確認が必要かも?」と発表を戸惑っていましたね。(注:「夢眠ねむ賞」は夢眠さんが選ぶ個人賞。今年は『いいにおいのおならをうるおとこ』を選定したが、発表の前に少し言いとどまった。ちなみに昨年の夢眠ねむ賞は『既読スルーは死をまねく』)
夢眠:これはまずい(笑)。そうなんですよね、でもプリントアウトされたタイトルのリストを見ていて、どうしてもこの『いいにおいのおならをうるおとこ』が頭から離れなかったんです。
実は結構(個人賞を)選ぶ時間がなくて、その時一番印象に残ったものを選ぶようにしているんですけど、このタイトルは読み上げた時に本当にスッと馴染むように言えて、「あ、これは良いタイトルだな」と。
――「おなら」に「いいにおい」と「うるおとこ」という言葉をかけあわせると、なんか不思議な印象を受けます。
夢眠:ロマンを感じますよね。本当はアイドルらしく、きれいなタイトルを選びたい気持ちもあったんですけど、年1回、この日のタイトルの読み上げだけは、「おなら」とかそういう言葉も口にしても良いと決めているので、今日は自分に素直に選ばせていただきました。
それで、さっき『いいにおいのおならをうるおとこ』について調べていただいたら、実はフランスの絵本だったらしくて!
――あ、そう捉えると、なにか芸術性を感じられますね。なるほど。
夢眠:そういうところがあるんですよ(笑)。タイトルだけで選びたいので、(本を)読まないでのぞんでいるのですが、この絵本は実際に読んでみたいですね。それに、フランスの作者の方に私が選んだということが届けば嬉しいです。
■自身初の作品集『まろやかな狂気』に対する想い
――今回の「タイトルだけ大賞」でもたびたび話題になりましたが、夢眠さんの作品集『まろやかな狂気―夢眠ねむ作品集』が好評ですね。(*注:『まろやかな狂気』は夢眠さんへのインタビュー、もふくちゃんこと福嶋麻衣子さんとの対談、夢眠さんの作品集からなる単行本)
夢眠:そうですね、生放送の序盤で相当いじってもらえたので(笑)。でも、本当にサブタイトル(「夢眠ねむ作品集」)をつけなければ、受賞作の中に入れたかもしれなくて。
今回の大賞になった『パープル式部』や、残念賞の『前科おじさん』と同じくらいのタイトルの長さなんですよね。「タイトルだけ大賞」に出演している身としても、大賞に合わせたタイトルをつけるべきだったと反省しました(笑)。
――もし、大賞を取ることになれば、「タイトルだけ大賞」史上に残るきれいなタイトルになったのではないでしょうか。
夢眠:ありがとうございます! でも、今回審査員やニコ生を見ていただいた皆さんに、「まろ狂っぽい」「まろ狂っぽくない」というタイトルの傾向を示す評価基準みたいに使っていただいたので良かったです(笑)。
――昨年は「マカロン」で、今年は「まろ狂っぽい」が流行しましたね。 (*注:昨年の「タイトルだけ大賞」で、夢眠さんが下ネタ系の言葉に触れたときに「マカロン!」と唱えて場を浄化する呪文が開発され、番組内で大ブームになった)
夢眠:だから、もし来年もこの賞に呼んでいただけたら、新しい呪文を唱えたいと思います。
――『まろやかな狂気』というタイトルも不思議な印象を与えてくれますよね。どのようにして付けられたのですか?
夢眠:私、でんぱ組.incの中でミントグリーンという色を担当しているんですけど、緑って癒しや安らぎの色と言われる一方で、見続けると狂気を醸し出すという言い伝えもあるそうなんですね。その緑に白を加えたミントグリーンのイメージを、言葉に落としたのが『まろやかな狂気』なんです。
アイドルなので、尖ったことを言うときもまろやかにする癖がついていて、そういうことも背景にありますね。
(*注:なぜ夢眠さんがミントグリーンを担当色に選んだかは『まろやかな狂気』で語られているので参照してほしい)
――本書は音楽雑誌『MARQUEE』での連載をまとめた一冊です。どのような人に読んでほしいですか?
夢眠:ページをめくってもらうと分かるんですけど、相当読みにくい本だと思うんですよね(笑)。文字も小さいし、すごく詰まっているから。興味がないと最後まで読めない仕掛けになっているんですけど、この文字サイズで最初の一章が読めた方には、ぜひ最後まで読んでほしいです。
あとは、アイドルに対して偏見を持っている人にも読んでほしい。私は今、アイドルが本業ですけど、もともとアイドルに偏見を持っていたんです。でも、そこから実際に自分がアイドルになって考え直したことだったり、そのときの考えの流れも全部書いています。なので、アイドルに興味がない方だったり、普通にエッセイが好きな方も手にとってほしいですね。
――夢眠さんは、以前からアイドルを芸術として再定義するという試みをしてきましたよね。その集大成ともいえる一冊だと思いました。
夢眠:ありがとうございます。だから、一冊としてまとまったのは嬉しいんです。美術家として作品集を出したかったのですが、作家として若くして出すことができたので良かったです。大学の同期には「(作品集出すの)早いねー」と言われたりして(笑)自信になりました。