【「本が好き!」レビュー】『HARD THINGS』ベン・ホロウィッツ著
提供: 本が好き!■「しくじりイベント対策ガイドブック」
『ビジネス書大賞2016年』
『ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶベスト経営書 第1位』
の2冠を達成した本書。
身動きすらとれない、次から次へと起こる暴風雨のような「困難なこと」に巻き込まれながらも、生きる残るための方策を探し出し、がむしゃらにそれを実行することで生き延びてきた“戦時のCEO”、ベン・ホロウィッツ氏の実体験が赤裸々に綴られています。
幾度となく訪れる“しくじりイベント”に、よくも土俵際で粘って生きながられることができたものだと、本当に素直に称賛したいと思います。
常人であれば、ホロウィッツ氏が経験した“しくじりイベント”に遭遇していれば十中八九、しくじっていたのではないでしょうか。
そういう意味で、本書は人生で誰しもが遭遇する可能性を持つ**「しくじりイベント対策ガイドブック」**として非常に優れていると思います。
■ホロウィッツ氏が得たものは?
ただ一点、気になったのは**「CEO時代を通じてホロウィッツ氏が得たものは、一体何だったのだろうか?」**ということでした。
様々な困難を乗り越えてホロウィッツ氏は自身が共同創業者として立ち上げたIT企業を大きく成長させました。その困難の中には事業に関すること以外にも、“人生の伴侶が生死を彷徨う”ということまで含まれていました。
人生の伴侶が生死を彷徨っている最中、それに駆けつけることすら許されず、事業に集中しなければならない―。
そんな身を引き裂かれるような思いまで経験して育て上げた自身のIT企業をホロウィッツ氏は最終的には大手のライバル会社に**「売却」**してしまいます。
確かにその事業を続けていても将来の見通しは暗かったのかもしれません―。
確かにその時点で売却するということが最も企業価値を高める行為だったのかもしれません―。
確かに会社を売却するという選択肢は取締役会からも従業員からも支持されていたのかもしれません―。
とはいえ、雇われのプロCEOならいざ知らず、ホロウィッツ氏のような創業者CEOにとって自ら育て上げた企業を手放すという決断は、なかなか承服しがたいことなのではないでしょうか。
ホロウィッツ氏自身も第8章の中で**「会社を売却すべきか」**というサブタイトルをつけて数ページにわたって語っていますが、ここで語られている内容を読んでもモヤモヤ感が残るのは否めませんでした。
万が一にもあり得ないでしょうが、ホロウィッツ氏に会うことができたなら**「あなたはCEOとして何を成し遂げたと考えているのか、一体何を得たのか?」**と尋ねてみたいものです。
同時にホロウィッツ氏が体験した「しくじりイベント」を自分自身に置き換えて考えてみることができれば、CEOでなくとも**「自分なりの”しくじりイベント対策ブック”」**を形作るのに非常に役立つのではないかと感じました。
『ビジネス書大賞2016年』受賞も納得の一冊でした。 オススメです!
(レビュー:Scorpions)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」