「平等になるって素晴らしい」 レズビアンカップルが感じた「同性婚」の意味
LGBT」という言葉を知らないという人はずいぶん少なくなったのではないか。
毎年ゴールデンウイークには東京・渋谷でLGBTへの理解を呼びかけるパレードが行われており、たくさんのメディアがそれを報じているし、LGBTについて描かれた文学作品や映画作品なども話題を呼んでいる。
念のためにLGBTの意味を説明すると「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー」の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティの総称として日本でも定着してきた。そして、こうしたマイノリティに対する認識は、少しずつ是正されているように思える。LGBTは、これまで差別や偏見にさらされてきた性的マイノリティの人たちを、肯定的にとらえ直そうという概念だ。
その出来事を象徴するのが、2015年11月より渋谷区で始まった「パートナーシップ証明書」の交付だろう。これは、法律上の婚姻とは異なるものの、男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備えた同性の関係を「パートナーシップ」と定義し、その関係を証明するものだ。この取り組みは渋谷区に続き、日本各地に広がろうとしている。
では、同性愛や同性婚の「当事者」は今、どのようなことを感じているのか? パートナーの増原裕子さんとともに「同性パートナーシップ証明書」交付の記念すべき一組目となった、『同性婚のリアル』(ポプラ社刊)の共著者の一人である東小雪さんにお話をうかがった。
(取材・構成/金井元貴)
■「レズビアンとゲイのカップルの違い」というアイデアから生まれた本
――この本は東さんと増原さんのお二人の対談形式で書かれていますが、LGBTについて非常に分かりやすく説明されているのが印象的でした。
東:渋谷区などの行政側に動きがある中で、日本全体を見てもLGBTや同性婚が少しずつ話題になってきています。このタイミングで、LGBTや同性婚について知りたいと思った方、分からないことが多いと思った方に、手にとってすぐに読んでもらいたいと思ってこの本を出版したので、そう言っていただけるとすごく嬉しいです。
――どのようなアイデアからこの本は生まれたのでしょうか。
東:もともとはレズビアンのカップルとゲイのカップルの違いが分かると面白いよね、というアイデアがあったんですね。私とパートナーの増原裕子とは、出会ってから4年半以上、結婚して3年になるのですが、講演会などでお話しすると、「家事の分担はどうしていますか?」という質問を頻繁にいただきます。同性カップルの日常生活ってこれまであまり語られてこなかったため興味があるんだな、という気づきがありました。同じ同性カップルでも、ゲイカップルとの共通点や相違点について語り合ったら深みが出るのではという思いがあり、同性カップルや同性婚ってこんな感じなんだよということを伝える本をつくったんです。
――恋をする過程なども語られていますが、まったく特別なものではないですよね。これはやはり人それぞれなのだと思いました。
東:そうなんですよね。世の中には男女のカップルしかいないように見えるかもしれません。やはり、まだまだ伝わっていないと感じることがあります。だからこの本を通して伝わればとても嬉しいです。
■平等になることは素晴らしいこと
――昨年11月から渋谷区でパートナーシップ証明書の交付が始まりました。その交付第1号が東さんと増原さんでしたが、これは大きい出来事だったのではないですか?
東:実はこの本を作っている途中でそれがあったので、タイミングとしてはばっちりでしたね。
この対談は昨年の夏に行ったのですが、対談後にパートナーシップ証明書の交付が始まり、渋谷区から正式にパートナーとして認められるようになって、大きな変化があったんですね。時代の動きのはやさを感じながら編集作業をしていました。
――実際にパートナーシップ証明書が交付されたあとに、どのような点が変わりましたか?
東:大きかったのは、生命保険の死亡保険金の受取人に、同性パートナーを指定できるようになる方向で業界が動いたことですね。これから2人で暮らしていく中で、病気をしたときにどうしようとか、私たちは会社を経営しているので、もし働けなくなったらどうするかということはよく話していました。ですのでこれは画期的でとても嬉しかったです。生命保険の受取ができるようになったことも含めて、これから働き方や生き方の選択肢が広がっていくことを実感しました。
――証明書が交付されたときの心境はどうでしたか?
東:前月の10月28日から申請が始まっていました。それが、私たち2人が家族として役所でする最初の公的な手続きでしたから、とても感動したことを覚えています。また交付の際には仲間たちが駆けつけて見守ってくれたのですが、彼らの方が先に泣き出してしまって(笑)平等になるってすごいことだと実感しました。
■LGBTに配慮しない企業はリスクを抱える社会になる
――本書を読んでいて、自分が同性を好きだと気づいたときの受け皿はすごく重要だと感じました。例えば対談されたゲイカップルのお二人が、新宿2丁目に行ったと言っていましたが、こういう受け皿となる場所があるといいのかな、と。これは都市部と地方ではかなり差があるのではないですか?
東:私は金沢の出身ですが、16歳のときに女の子が好きだと気づいたときはLGBTという言葉があるのも知らなかったし、顔と名前を出している当事者も知らなかったし、つながることができる場所もありませんでした。
東京ではLGBTのパレードが行われているというのを本で知ったのですが、金沢からはすごく遠い。ロールモデルになってくれる大人がいたり、正しい情報があったり、つながれる場所があったらどんなに良かっただろうと思いますし、その都市部と地方の情報格差の問題は、今でも解決しているとは言えません。
私自身、全国各地で講演や研修をさせてもらっていますが、大阪や名古屋はまた事情が違うけれど、北陸や東北などの保守的な文化が強い地域に行くと「カミングアウトができない」「友達ができない」という声を多く聞きます。
――そういった人たちの受け皿として、インターネットを介してのコミュニティができているんですね。
東:そうですね。私と増原でLGBTとアライ(支援者)のためのオンラインサロン「こゆひろサロン」を運営しているのですが、例えば金沢の人と富山の人がつながることができれば、車で行き来できる距離ですよね。私が学生の頃はSNSもありませんでしたが、今ではそういったところで新しいつながりができつつあるように思いますね。
また、今インタビューをお受けしているここ「カラフルステーション」は、LGBTコミュニティのメンバーが集う場所として使われています。こうした集まれる場というのはすごく大事です。アメリカやフランスのLGBTセンターの視察にも行きましたが、やはり日本でも全国各地にLGBTセンターが必要だと感じています。
――行政と意見交換をすることはあるんですか?
東:パートナーシップ証明書が交付されるときに、渋谷区に意見を届けました。申請に際して公正証書を作成して提出することが必要になるのですが、作成に手数料が必要になるんですね。その額はカップルによっては小さくないものですから、公正証書なしでも申請できるようにご検討いただきたいというお話をさせていただきました。婚姻届は無料で提出できますから、早く同じになったら良いと思っています。
去年渋谷区と世田谷区でパートナーシップ証明書の発行がはじまり、今年の4月には伊賀市、6月に宝塚市、7月には那覇市でも同様の取り組みがスタートします。この動きがもっと全国に広がってほしいですし、第一歩として非常に大きなものだったと思うのですが、やはり婚姻とは違いがあるので、私は日本でも国の法律で同性婚を法制化してほしいと強く願っています。
――また、企業側でも動きが出てきています。直近では、パナソニックが同性婚を社内規定で容認しました。
東:素晴らしいですね。従業員25万人規模(連結)の企業が動くことによって、他の企業にも影響がありますし、行政の動きと合わせて社会のいたる所で連動していくでしょう。企業や行政の動きをメディアが取り上げることで、地方にも少しずつ伝播していく。そうやってLGBTに対する世間の意識が変わっていくのだと思います。
また今後は、企業として社員の同性婚を支持しないという姿勢はリスクにさえなっていくと思っています。実際にアメリカでは訴訟が起きていますし、日本でも性同一性障害の方のトイレ使用をめぐって現在裁判が起きています。「ダイバーシティの取り組みの一環でLGBTの視点を入れないことは、遅れていること」という認識が広まる中で、企業がガイドラインを示すことは非常に大切ですし、LGBTに配慮しているということが、企業イメージの向上につながっていく時代がすでに来ています。
(後編「LGBT当事者に聞く『メディアからの取り上げられ方」の問題点』に続く)
■東小雪さんプロフィール(写真左)
1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ、LGBTアクティビスト、LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。
著書に『同性婚のリアル』(ポプラ社)、『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』、『レズビアン的結婚生活』。LGBT初のオンラインサロン「こゆひろサロン」運営。
ブログ:元タカラジェンヌ東小雪の「レズビアン的結婚生活」