だれかに話したくなる本の話

「デザイン」が切り拓く雑誌の新たな可能性 『Quick Japan』新編集長・続木順平さんに聞く(2)

編集長が変わるということは、その媒体の方向性が大きく変わるということを意味する。多くのメディアの場合、媒体の色を決めるのは編集長の役目である。どんなコンテンツを作り、どう打ち出していきたいのかを考え、責任を持つのだ。

創刊22年目を迎えるカルチャー雑誌『Quick Japan』(太田出版刊)は2015年12月をもって、編集長が藤井直樹さんから続木順平さんにバトンタッチされた。

続木順平さんの掲げるスローガンは「A VOICE OF NEW GENERATION」。「“次代の声”に耳をすます」というものだ。巻頭特集ではSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の奥田愛基さんをクローズアップし、特集第二部ではアニメ「おそ松さん」にスポットをあてる。他にも雑誌のデザインを刷新し、さまざまな工夫を凝らしている。

では、続木さんは『Quick Japan』の看板を背負うことについて、どのように考えているのか。また、次々に生まれるウェブメディアに対して、雑誌の可能性をどう捉えているのか。話をうかがった。

(取材・記事・写真/金井元貴)

インタビュー前編はこちらから

■新しい『Quick Japan』は紙が違う

――そういえば今号は紙の質感が良いですね。柔らかいというか。

続木:そうなんですよ。手触りがいいですよね。今号からアートディレクターとして佐藤亜沙美さん(サトウサンカイ)とご一緒することになったのですが、これは佐藤さんと話し合ったこだわりです。特集やコーナーによって紙を変えたりして、めくった時の質感が変わるようしていただきました。

――佐藤さんは『Quick Japan』史上初めての女性アートディレクターになるそうですが、どういうきっかけで起用されたのですか?

続木:男女まったくこだわりはなく、とにかく若い人にお願いをしたくてデザイナーを探していました。

その中で、以前『Quick Japan』のデザインをされていた方のつながりでご紹介を受けたのが佐藤さんです。2014年に独立されたばかりで、『Quick Japan』のことも知ってくださっていましたし、なによりリニューアルのコンセプトをすぐに理解いただけて共感していただけたんです。トントン拍子で話が決まりました。

――表紙のデザインからインパクトがありますよね。金色で文字を入れて。

続木:新装刊なので、派手にいこうと(笑)。新しいロゴが箔押しで入って、インパクトのある表紙になって嬉しいです。


■『Quick Japan』は編集長によってカラーが違う雑誌

――続木さんは今号から編集長に就任されましたが、20年以上の伝統があるカルチャー雑誌の看板を背負うというのはどのような心境なんですか?

続木:実はあまり深く考えていないというか(笑)、確かに歴史はありますが、『Quick Japan』は、編集長によってカラーが変わる雑誌です。だから「お笑い」を押し出す時期もあれば、「アイドル」を押し出す時期もあって。雑誌自体がそのときのカルチャーに左右されるので、それまでの路線を継続することは考えていませんでした。むしろ、今、自分は何が面白いのだろうと考えることを大事にしています。

――ここ数年間はずっと、ももいろクローバーZの特集を続けてきましたが、その中で続木さんの目から見たももクロを特集するという選択肢もあったのではないですか?

続木:それはありました。ただ、若い世代の声を拾っていくことをコンセプトにしたときに、ムーブメントはももクロだけではありませんし、一度そういった各分野を整理していきたいという思いがあります。

――つまり、別の分野で活躍している新しい世代にも目を向けてみたんですね。

続木:そうですね。いまはアイドル自体がカルチャーの一つとして認知されていますし、アイドル特集も増えました。次号のBABYMETALのように、アイドルからアーティストに変わっていった新しい姿もありますしね。


■「デザインは雑誌の持つ強い力」

――最後に、ウェブについてお話をうかがいたく思います。今や雑誌もウェブに進出されていて、ネット上で話題になることがありますが、『Quick Japan』はウェブに対してはあまり積極的ではないですよね。

続木:そうですね。ただ、ウェブメディアに対してはうらやましいという思いがあるんですよ(笑)。即時性が高いし、写真・文字の制限もないですよね。本だとページ全体での見せ方を考えたり、文字数の制限もあったりするので、制約はどうしても多くなります。(発行ペースが)隔月でなければ、ウェブでなにかしたいと思っているんですけどね。

――続木さんが編集長になって、ウェブでの情報発信を始めることはないんですか?

続木:正直なところ、本だけで手いっぱいというところですね。新装刊するときに何かやりたいという気持ちがなかったわけではないのですが、いきなりウェブだ!といって入っていっても、見せ方も分からないし、技術もないわけですから。素人の自分が下手に手を出してはいけないと思います。

――ウェブ専門のメディアがどんどん誕生している中で、『Quick Japan』は一つのメディアとしてどのように戦っていこうと考えていますか?

続木:雑誌でもできることはたくさんあると思います。今回の『Quick Japan』ならば、奥田さんのインタビューや「おそ松さん」の特集、ライターさんのコラムなんかが同居していて、一つのまとまりとして読むことができます。

ウェブでは情報を自分で取捨選択しますが、雑誌では自分の分野にないものが突然視界に入ったりしてきます。ページをめくっていくことで、脳が刺激されるような感覚を生み出したいと思っていて、自分の回路にないものに偶然出会えるようにしたいんですね。そういうことで新しいアイデアが生まれることもあるじゃないですか。

また、デザインって雑誌が持つ強い力だと思っていて、ページをめくりたくなる紙もそうですし、キラキラ光る加工や、レイアウトの工夫もたくさんできます。手にとって受ける感覚や、真逆の特集が混在している内容など、双方から読者の脳を刺激する雑誌作りをしていきたいですね。

――影響を受けた本を一冊ご紹介いただけないでしょうか。

続木:雑誌だと『宝島』なんですけどね。有象無象の情報、得体の知れない何かが詰まっている世界を見るのが好きなので。

本だと、沢木耕太郎さんの『彼らの流儀』です。無名の人たちに取材をしたノンフィクションの短編集なのですが、チャーミーグリーンの「手をつなぎたくなる」っていうCMに出てくる若い夫婦の数年後を取材した話があるんですね。

実は旦那さんがライオンの社員さんで、当時CMを見てあんなのだったら俺ら夫婦のほうがいいと言ったら本当に起用されたそうで。その後会社を辞めて……という顛末が書いてあるのですが、この本を読んで、有名ではない人にも光をあててみると、皆ドラマを抱えていることを知りましたね。

――それは、今のお仕事につながっていますよね。

続木:つながっていますね。ノンフィクションが好きで読んでいるのですが、学生の時に影響を受けたのが『彼らの流儀』だったんですよ。その人が持っている世界を知りたいっていう気持ちは、確かに「奥田さんが何者なのか知りたい」というところにも影響しています。

――今後への意気込みをお願いできますでしょうか。

続木:今号は奥田さん、次号はBABYMETALを特集します。ジャンルにとらわれず、自分が面白いと思うものや、今動いているものの現場に入って、その模様を切り取っていきたいと思っておりますので、この調子で突き進んでいきたいですね。

(了)



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この記事のライター

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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