なぜ『Quick Japan』はSEALDs奥田愛基を表紙にしたのか? 新編集長・続木順平さんに聞く(1)
こ数年、ももいろクローバーZを熱心に追いかけてきたカルチャー雑誌『Quick Japan』(太田出版刊)は、2015年12月発行の123号をもって、編集長が藤井直樹さんから続木順平さんにバトンタッチされた。
『Quick Japan』といえば、編集長のカラーが全面的に分かりやすく打ち出される雑誌だ。新しく編集長となった続木さんはどのような誌面づくりをするのか。アイドル路線を踏襲するのか、それとも…?
発売日が近づいた2月15日、新装刊される『Quick Japan』の表紙が公表された。巻頭表紙は、SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の奥田愛基さん。このことはネット上で賛否両論を生んだ。
『Quick Japan』124号は2月23日に発売され、すでに手に取った読者は多いだろう。巻頭特集のタイトルは「ニュージェネレーション2016」。新しい世代を担う若者たちに徹底的にスポットをあてている。また、特集第二部でフォーカスされているのは、今、大人気のアニメ「おそ松さん」だ。
その他のコラムやレビューも強力なメンバーが揃っている124号。『Quick Japan』は、どこに向かおうとしているのか? 編集長・続木順平さんに話を聞いた。
(取材・記事・写真/金井元貴)
■賛否両論の声は「まっとうな反応だと思う」
――まず、『Quick Japan』124号の表紙が公表されたときに、ネット上ではまさに賛否両論上がりました。続木新編集長はその声をどのように受け止めていましたか?
続木順平さん(以下、続木):まっとうな反応だと思いました。(表紙を)出す前から賛否両論は想像していたことでしたので、「あ、来たな」と。それに「奥田さんが表紙だから」というだけではなくて、これまで数年間、ももいろクローバーZを追いかけてきたのもあったので、「アイドル路線じゃなくなったのか」と思った人も多かったようです。
――私も奥田さんを表紙に起用したことは、ある意味で続木さんが新しい編集長に就任して、「これからの『Quick Japan』を示すぞ」という意志表明のように感じました。
続木:実際アイドル路線はもうしないとか、そういうわけではないんですよね。これまでの方向性をガラリと変えようとは思っていません。
表紙をめくるとBABYMETALのワールドツアーの告知があったり、巻頭ページにはBABYMETALの記事が入ってます。さらに4月号はBABYMETAL特集だと次号予告に入れていたり。
――至るところにBABYMETALの名前が出てきますね。
続木:そうなんですよ(笑)。だから、リニューアル号の表紙が奥田さんだから、これから『Quick Japan』は政治的な色を帯びていくのではないかと思っている人もいるかもしれませんが、そういう風には考えていません。
■なぜ『Quick Japan』は奥田愛基を表紙にしたのか?
――奥田さんを巻頭で特集する案はいつ頃からあったのですか?
続木:去年の12月くらいにリニューアル号の作業が本格的に動き出したときです。(リニューアルにあたって)若い世代を取り上げたかったんですね。彼らの声をちゃんと汲み取って届けられれば、その世代の人たちや彼らに関心を持つ人たちにも広く読んでもらえると思っていたので、若い世代のアイコンを考えたときに、幅広い年齢層に存在を知られている奥田さんが出てきたんです。
奥田さんが今、何を考えていて、どういう風に動いて、これからどこへ向かおうとしているのか。彼の言葉は若い世代にとってのなんらかの指針になるのではないかと。
――では、SEALDsとしての奥田さんというよりは、彼のパーソナルな部分を掘り下げたいと考えたんですか。
続木:そうです。23歳の等身大の彼にフォーカスすると何が出てくるのか。世間の23歳って社会人になりたてであったり、まだ学生だったり、ちょうど間にいる年齢だと思うのですが、奥田さんは一体どんな人なのだろうと考えたときに、その揺れ動く内面があまり知られていないように感じたんです。
どうしても政治的な人物であるというイメージが先行してしまいがちですが、内面を知ってから、彼の政治的なアプローチを見てみると、また違ってものが見えてくるかもしれないと考えました。
――リニューアルにあたって『Quick Japan』のコンセプトが「A VOICE OF NEW GENERATION」に変わりました。今号の奥田さん以外の特集や執筆者を見ても、そのキャッチフレーズに合致した人選になっていると思いますが、このコンセプトに込められた想いは?
続木:リニューアルにあたり、『Quick Japan』の創刊号を読み返していたのですが、そこで初代編集長の赤田祐一さんが、「A VOICE OF NEW GENERATION」という言葉を使っていたんです。
「ジャーナリズム」ではなく「ニュー・ジャーナリズム」を本気で目指した雑誌を若い人に届けるんだ、そのためにはもっと現場に行って一緒に体験をしたり、同行したりして、彼らの声に耳を傾けて、自分の言葉でそのことを書かないといけないんだという内容なんですが、「これって今じゃん!」って(笑)。特に今は若い世代と上の世代との興味の対象がスパっと切れて、何をしているのかまったくわからない状態が増えている気がするので、そのあたりをちゃんと知りたい。でもそれがなくなってしまったのは、役割を担う人が減っているからなんじゃないかという想いもあって、この言葉を改めて提示しました。
■SEALDsから「おそ松さん」まで 幅の広さの秘密
――続木さんはおいくつなんですか?
続木:34歳です。
――私は32歳なのですが、20代前半の人たちと話をしていると、彼らはデジタルネイティブで育ってきていて、コミュニケーションの方法や消費の仕方を含めて価値観の違いを感じることがあるんですね。得体の知れない怖さのようなものを感じることもあります。続木さんは新しい世代にアプローチをする際にそういったものは感じませんか?
続木:怖さはあまりなくて、むしろ興味だけです。ただ、向こう側は得体の知れない人が話しかけてきたと思っているかもしれません(笑)。
コミュニケーションの取り方が多様になったことは純粋に面白いと思いますし。取材中にスマホで写真を撮ってSNSにアップする子もいたりしますけど、それは彼らの生活の中では自然な行動だと思うので、興味を持って見ていますね。
――実はそういう若い世代のカルチャーをまとめて、全世代に向けて発信してきたのが『Quick Japan』という雑誌で、世代間のコミュニケーションの断絶を埋めるという非常に重要な役割を果たしているように思うんですね。
今号で表紙が奥田さんだと聞いたときに、単純にSEALDsからの文脈で奥田さんを切り取ることはないだろうし、『Quick Japan』がどのようにカルチャーとして奥田さんを捉えるのか、期待感を抱きました。
続木:彼らは政治的な運動をしていますが、デモ自体はずっとダサいと言っていますし、ビラもデザインも怖いから参加する気がなくなるとも訴えていますよね。ただ、政治に対して声をあげることは普通だと捉えて、今だったらどういうふうに伝えるのが適切なのか、それを考えてカルチャーにしようとしている。
そこはすごく共感しています。政治に対して発言すると、「その発言は○○寄りだよね」とすぐ一つに固められてしまうので、自分の考えることを主張するのがとても重い世の中になっていると思うんです。
実際は一人の思想が一つの政党に合致することはなくて、自民党のこの部分には賛同できるし、民主党のあの部分は取り入れるべきだ、となるのが普通ですよね。奥田さんが訴えているのはその部分です。
70年代を過ぎた後から、多くの大人は政治的な運動から離れてしまった。でも今、若い人たちが政治に興味を持って立ち上がって、一つの運動を起こそうとしているのは、いままでの断絶を埋めているようで面白い動きだと思うんですよ。もちろんそういった活動は賛否両論が上がるものですが、若い人自身が動いているのは注目すべきです。
――話はがらっと変わりますが、第2特集では「おそ松さん」を扱っていますよね。すごい振れ幅というか…。
続木:幅が広いですよね(笑)
――奥田さんと「おそ松さん」が共存する雑誌は『Quick Japan』しかないのではないかと思います。
続木:「おそ松さん」も一つのうねりじゃないですか。六つ子が20代前半になって、ニートでバカなことばかりやっていますけど、彼らの欲望や夢の持ち方はどこか共感できますよね。ただの腐女子向けのアニメでは片付けられない、今の時代をあらわしたものだ思って特集を組んでいます。
【後編は3月4日配信予定!】
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