だれかに話したくなる本の話

「恋愛はそもそも理不尽で傷つけあうもの」――唯川恵さんインタビュー(2)

出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第65回の今回は、短編集『逢魔』で初の時代小説に挑戦した唯川恵さんです。恋愛小説の名手として知られる唯川さんですが、本作は“恋愛×官能×時代物”。「牡丹燈籠」「番町皿屋敷」「源氏物語」など日本の古典文学作品をベースに艶やかな言葉でつづられる官能的な物語世界に、思わず引き込まれてしまうはず。身分違いの恋や、魔との邂逅などを描いた8編の作品が収録されています。
 今回は唯川さんに本作『逢魔』の内容を中心に、恋愛について、作家活動についてお話をうかがいました。 昨日に引き続き、中編をお送りします。
(新刊JP編集部/金井元貴)

■ 「恋愛はそもそも理不尽で傷つけあうもの」

―― 本作もそうなのですが、時代物の作品は言葉遣いがとても多様ですよね。

唯川:そう思いますね。今は花柳界に行かないとこんな情緒ある言葉はなかなか聞く機会はないのでしょうけど、言葉一つとっても、時代が変わればこんなに色っぽく書けるのだなと思いました。
例えば性行為そのものも、今は「セックス」という言葉でだいたいひとくくりにできますけど、昔はいろいろな言葉があって使い分けができていたんですよね。

―― こんなに「まら」という言葉が出てくる小説はなかなかないと思います。ただ、「まら」は男性器を指す言葉だというのは知っていましたが、「ホト」は分からなかったですね。

唯川:そうだと思います(笑)「ホト」は女性器を指すのですが、そういう日本語があるんですよね。

―― 男性と女性の恋愛のみならず、女性同士の交わりのエピソードもあります。

唯川:「番町皿屋敷」の加代と菊の話ですね。「番町皿屋敷」はとても有名な話ですが、実はその作品自体に色っぽい話はないんです。だから、自分なりにアレンジを加えて、女性同士の恋…昔の言葉では「合淫」というのですが、その要素を加えました。今までは0からストーリーを考えていますが、この短編集は1をどう広げていくかという作業だったので刺激的でしたね。

―― 「合淫」という言葉もそうなのですが、昔の表現は艶やかで妄想がかき立てられますね。

唯川:先ほど「ホト」と「まら」の話が出ましたが、女性器と男性器も調べていくいろいろな言葉があって、それこそ地方によっても、時代によっても違うんですよね。現代のほうが、言葉が溢れていると思うのですが、表現という意味ではかなりしぼられていると感じました。

―― この8編の短編、すべて魅力的な作品なのですが、男性目線でいうと「山姥」をモチーフにした『真白き乳房』が好きでした。

唯川: あ、やっぱりそうなんですね(笑)実は「山姥」が好きという男性が多いんですよ!

―― すごく分かります。主人公の吾助と息子の草太、どちらも感情移入できました。

唯川:なるほど。今の男の子たちの感情は吾助に近いのか(笑)

―― 吾助は草食系なところがあって、山姥の誘惑に対して必死に抵抗しようとするけれど、あの感覚がすごく分かるんです。

唯川:私はあの作品を書いていたとき、男性にとって母親という存在はとても大きくて、その母親を象徴するものが乳房なんだろうなと考えていました。でも、とてもエッチですよね(笑)それとね、「山姥」って日本の代表的な伝承の一つですけれど、実は日本中に散らばっているんですよ。

―― その土地ごとに山姥がいる。でも、それぞれの山姥に違いはあるんですか?

唯川:まず共通している点は人を食べるというところですね。違う点は…ときどき、すごく縁起の良い存在だとされていることもあるんです。そういうのも調べていく中で分かったので、面白かったです。

―― いろいろな解釈があるんですね。でも、この短編集を通して「女性は怖い」という感覚がどこかにありました。

唯川:そう思ってもらえるのは嬉しいです。女性にとって、恋愛は時によって命がけなんですよね。今はそうではないのかもしれないけれど、かつては生き死にをかけた気持ちのやり取りだったのではないかと思うんです。『逢魔』ではそういったところを描きたかった想いはありますね。

―― 確かに「身分違いの恋」というのは、今ではあまりないですね。

唯川:ないでしょう。でも、今でもそういったテーマが私たちの心を惹きつけるのは、恋愛は越えられないものがあればあるほど燃えるものだからだと思います。

―― むしろ最近よく言われるのが、若者たちの恋愛離れやセックス離れです。唯川さんはそういった風潮があることに対してどのように考えていますか?

唯川:例えば恋愛だけあってセックスがない関係、これも一つの恋愛ですし、セックスだけでもある種の恋愛だと思うんです。ただ、極端に分かれ過ぎている印象は受けます。ものすごく恋愛体質な子もいれば、まったく恋愛に興味がないという子もいる。昔からそういう子はいましたけれど少数で、その真ん中で揺れ動いている人がほとんどだったと思います。
「恋愛をしたくない」と言っている子は、心のどこかに傷つきたくないという想いがあるのかもしれません。でも、恋愛なんてもともと理不尽で傷つけあうものです。傷つけられることを覚悟しなければいけないと思うし、逆に反対側に振り切ると、それこそ自分から背を向けただけで「殺す」「殺さない」みたいな話が出てくる。恋愛ってそういうものだから、その部分を受け入れられるかどうかだと思いますね。

第3回「恋愛で感情が乱れるのは「他の女性」がいるから」につづく