「人事ガチャ」は本当か?異動を決める企業人事の裏側
自分がどこの部署に配属されるかわからないという意味では、よく言われるように会社員にとって「人事」は「ガチャ」なのかもしれない。
では、人事異動を決める会社の方は、どんな方針で人の配置や昇進を決めているのか。『人事ガチャの秘密-配属・異動・昇進のからくり』(藤井薫著、中央公論新社刊)は人事を巡る企業側の思惑と方針が見え、企業人にとっては「自分の身の振り方は会社の決定次第」という漠然とした不安が和らぐ一冊だ。
◾️「人事異動を決めるのは人事部ではない」が示すもの
そもそも、誰をどこに配置するか、誰を異動させるかを決めているのは誰なのだろうか。「もちろん、人事部でしょ?」と考えるかもしれないが、実はそうとも限らない。
パーソル研究所が行った「非管理職層の異動配置に関する実態調査(2021年)によると、人事部が全従業員の人事異動案を作る会社は全体の3割ほど。一般社員の人事異動は社内の各部門で決める会社が大半なのだという。また規定上は人事部が異動の権限を持っていても、特別な理由がない限りは部門から上がってきた案をそのまま承認する会社も多い。
となると、じゃあ人事部は何をしているのか、という疑問が出てくるが、人事部もちゃんと「人事」を行っている。管理職の人事異動と新卒社員の配属である。管理職の人事異動については、「部長以上は人事部が人事異動案を作り、課長以下は各部門が作る」という会社もあれば、「課長以上は人事部、一般社員は各部門」という会社もある。
または、人事制度上の等級の昇格については人事部が主管し、役職昇進や異動配置はすべて部門で行う会社もある。そして新卒社員については情報を持っているのは人事部のみということもあって、人事部が配属先を決めるという会社が多い。いずれにせよ、会社の人事異動や配属は、人事部と各部門が分業で行っているのである。
◾️「人事ガチャ」はどのくらい外れるのか?
こうして決まる人事異動だが、「人事ガチャ」と呼ばれるように、必ずしも本人の希望通りの部署に配置されるわけではない。では「人事ガチャ」はどのくらい「外れる」のだろうか。
パーソル研究所の調査によると、会社指示での職種変更や事業部門変更を伴う異動に対して、「会社指示なので従う」という人は4割ほどしかいない。それに転居が伴うと無条件に従う人は4割を下回る。
過半数の人は異動を否定的に捉えているような印象を受けるが、これは「人事異動を提示されたらどうするか」という仮定の質問への回答であり、実際に人事異動を経験した人への調査結果を見ると、受ける印象は異なってくる。
こちらの調査結果では人事異動を「納得してポジティブに受け取っている人」は62.8%、「納得していないがポジティブに受け取っている人」が7.3%、「ネガティブに受け取っているが納得している人は4.4%となっている。75%ほどは異動をポジティブに捉えているか納得していることになる。となると、「人事ガチャ」が完全に外れたと考える人は4分の1ほどということになる。この数字を多いと捉えるか少ないと捉えるかは人それぞれだろうが、一つ知っておくべきは異動が納得できないものだったら交渉の余地はあるということ。
近年は有無を言わせない形で異動を提示するのではなく、対話を通じて理解・納得を得ようとするのが一般的になっているからである。
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人事異動がどのようなプロセスを経て決められていくのか、本書ではさらに詳しい解説がされている。
人事異動は時に予期せぬもので、時に不満が残るもの。そしてその不満は仕事へのモチベーションに大きく影響する。少しでも気持ちよく仕事をするために、企業人事がどのように行われているのかを知っておくのはプラスになる。本書はそのために最適な一冊だ。
(新刊JP編集部)