だれかに話したくなる本の話

画像加工で作った「魅力的な自分」を他人は魅力的とは思わない SNS時代の真実

自分の顔を鏡で見ては「俺ってかっこいい?」「私ってきれい」とひそかに喜ぶナルシストでなくても、多くの人にとって自分の顔は誰の顔よりもよく見る特別なものだ。昔の集合写真を見た時に、かつてのクラスメートは顔と名前が一致しなくても、自分がどこに映っているかはすぐわかった、という経験は誰しもが持っているはず。

また、自分の顔と他人の顔を並べて0.02秒というごくごく短い時間表示すると、自分の顔が表示されていた場所に自動的に注意が向いてしまうという。このように人は自分の顔を「VIP扱い」するものらしい。

■SNS時代の常識 自分の写真の加工に潜む落とし穴

『顔に取り憑かれた脳』(中野珠実著、講談社刊)は、私たち人間それぞれの顔と脳の関係を考察していく。

たとえば、私たちのほとんどは自分の顔を魅力的に見られたいという願望を持っている。だから、SNSに自分の顔が映った写真をアップする時に、しばしば画像を加工して「自分が考える魅力的な自分」へと近づけてからその画像を公開する。

ただ、加工はついついやりすぎてしまいがち。自分で加工した自分の写真が、かならずしも他人から見て「魅力的」に映るかはわからない。

本書では、こんな実験について書かれている。
30人の女子大生の協力を得て、それぞれの顔写真に人気の顔レタッチアプリで「目を大きく、下あごを細くする加工」を8段階で行った。そして、自分の顔の写真セット(加工の度合1~8)と他人の顔の写真セット(加工の度合1~8)をランダムな順番で見てもらい、それぞれの写真がどれくらい魅力的に見えるかを評価してもらった。

その結果、自分の顔も他人の顔も少しだけ目を大きくした時(加工度合3~4)は、元の顔よりも魅力度の評価が上がったが、それ以上に加工するとかえって評価が下がってしまったという。

また、「自分の顔に対して一番魅力的と思う加工レベル」と「他人の顔に対して一番魅力的と思う加工レベル」を比較したところ、自分の顔については加工度4.3くらいがもっとも魅力的と感じるのに、他人の顔については3.5くらいが一番魅力的だと感じるという結果に。

自分の顔は加工を強めにした方が魅力的だと感じ、他人の顔にはそれほど強い加工を加えない方が魅力的だと感じるということ。これは言い換えると、自分の顔に対しては強く加工を加えたいという心理が働くということだ。しかし、実験結果を踏まえると、その顔は他人から見ると「加工しすぎ」と見え、あまり魅力的には見えないのである。

美しく見られたい、かっこよく見られたい。
自分の写真を加工する心理には他者から魅力的に見られたい欲求が潜んでいる。しかし、ひとたび画像の加工を始めると、しだいにありのままの自分を見せるのが怖くなることもあるし、美しく加工された他人の写真ばかり見ていると、自分の容姿への満足度が下がってしまうケースもあるという。

どんな人にとっても大切な自分の顔。本書は自分が意識的・無意識的に自分の顔をどう捉え、評価しているのかを知るきっかけになってくれる。

(新刊JP編集部)

顔に取り憑かれた脳

顔に取り憑かれた脳

デジタル時代の今、ネット上は過度に加工された顔であふれている。これはテクノロジーの急速な発展がもたらした、新たな現代病なのかもしれない――なぜ、人間は“理想の顔”に取り憑かれるのだろうか。そのカギとなる「脳の働き」に最新科学で迫る。そこから浮かび上がってきたのは、他者と自分をつなぐ上での顔の重要性と、それを支える脳の多様で複雑な機能の存在だった。

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