だれかに話したくなる本の話

家も学校もない…「国境なき医師団」職員が見た世界・暴力・人生

イスラエルとハマスの戦闘が始まって二カ月あまり。
イスラエル軍の攻撃でガザ地区の住人に多数の犠牲者が出ていることから、国際社会から停戦を求める声が上がっている。

紛争に巻き込まれた人々への支援は難しい。ガザ地区の例を見ても、絶え間ない攻撃にさらされるなか物資や人を現地に入れること自体が困難だからである。

そんな紛争地に入り人道援助を続けているのが「国境なき医師団」である。『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』(サンマーク出版刊)はこの組織で10年以上国際人道支援の現場に立ち続けている著者による手記だ。

■「国境なき医師団」が見た世界の実情

国境なき医師団といっても、所属しているのは医師や看護師だけではない。著者の村田慎二郎さんも含め、海外派遣スタッフの半分ほどは非医療従事者なのだ。しかし、紛争地に飛び込む過酷さは、組織内での役回りとは関係がない。

村田さんにとって初めての人道援助の現場はスーダンのダルフールだった。「21世紀最初の大虐殺」と呼ばれるダルフール紛争が起きた場所である。アラブ系住民と非アラブ系住民の間で起きた水や牧草地をめぐる争いで、推定30万人が死亡し、200万人以上が家を追われ、避難民となった。

現地では暴力が蔓延していた。2000年代のダルフール地方で5歳以上の死亡原因の一位は、病気でも栄養失調でもなく、暴力だった。スーダン政府の支援を受けたアラブ系の民兵組織が、非アラブ系の村落を襲撃し、虐殺と性暴力を行い、挙句のはてには集落ごと焼き払い、井戸や耕作地を破壊していた。

これらの暴虐から逃げてきた人たちに国境なき医師団は無償で医療を提供していた。性暴力を受けた挙句に顔全体を切りつけられた老女に、栄養失調でやせ衰えた子ども。家もなく、学校もなく、ただ命ひとつで逃げてきた人々。ある新聞記者が現地の子どもたちに「将来の夢は?」と尋ねると、ある男の子は「外国人になること」と答えたという。

外国人になれば、このひどい状況から抜け出せる。逆に言えば、外国人にならない限り、暴力と飢えにさらされ続けるのが当時のスーダンの人々だったのである。

ダルフール紛争からシリア内戦、そしてバングラディッシュ。人道危機に見舞われた国々を巡り、支援を続けるなかで、村田さんの人生観や死生観は変わっていったという。

日本のような国に生まれ育ち、夢をもたない、追いかけないのはモッタイナイ。 「これができれば本望」といえる夢をもっているかどうか。これは、何歳になっても「命の使い方」を決める上できわめて重要な問いだ。(P12より)

本書の冒頭ではこんな問いかけがなされる。 どんな人にとっても大切なこの問い。あなたは明快な答えを持っているだろうか。すべての人に、限りある人生の使い方、時間の使い方を考えさせる一冊だ。

(新刊JP編集部)

「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと

「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと

人生でもっとも大切な「命の使い方」とは?
スーダン、シリア、イラク、イエメン……人道支援の現場10年、
ハーバード大学大学院で学んだ著者がいま伝えたいこと。

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