【「本が好き!」レビュー】『エフェクトラ――紅門福助最厄の事件』霞流一著
提供: 本が好き!久しぶりに笑えてそして最後に唸らされる本格ミステリーを愉しく読みました。しかも作者は未読どころかその存在さえ知りませんでした。(笑)。サブタイトルの「最厄の事件」の意味がラストで見事に回収されます。
名脇役として死に役を長年演じてきたので、渾名が、ダイプレイヤーとして人口に膾炙している俳優忍神健一は、俳優を目指す後輩の指導にも余念がなくホリウッドなる俳優養成学校も設立した。神主である彼の父は、バブル期に巨額の金をつぎ込み神社境内を一大テーマパークに変容させた。それは結婚披露宴を派手にするショー的要素の強いものであったが、バブルが弾け今は普通の神社になっていた。その場所の披露宴会場で彼の役者生活四十周年を記念するセレモニーを開催することになった。
ところがその準備期間中に不可解な事象が起こり、虫の知らせか不安を感じた忍神は、かつての映画関係者からの紹介で探偵を雇うこととなった。その探偵が紅門福助なのです。彼の課された依頼はセレモニーが滞りなく終了するように、監視するというものでした。さらにこのセレモニーに乗じて役をもらおうと一癖も二癖もある役者の卵たちも集まってきた。イベント準備中、不可解な出来事が続くなか足跡が消え失せた雪のシアターハウスで関係者の変死体が発見される。これが第一の殺人事件です。そして第二、第三の殺人事件が起こり………。
兎に角くだらないギャグ、ダジャレが満載でベタベタのベタなのですがここまで徹底されると爽快ですらあります。例として二、三あげますと………。「探偵に必要なものはIQではなくて愛嬌」。毛むくじゃらの中年オヤジの男優萌仲ミルキは、そのルックスとキャラの落差を活かすために常にセーラー服を着用している。その彼を評して「セーラー服と奇怪獣」と呼ぶ。
チャンドラーの「男はタフでなければ生きていけない、優しくなければ生きる資格がない」をもじって「タフなふりして疲れている、優しい真似して損している」とつぶやかせる(笑)。 ところがこの探偵、なかなかのキレ者なのです。 ホームズごっこが好きな容疑者の一人(小尾カン)との推理頭脳合戦は、くすっと笑わせ、しかし最後は鮮やかに相手を論理破綻の袋小路へと追い込み勝利するのです。
「こういうトリックが使われたと思わせるためのトリックに使用されたトリック」つまり「見せ掛けのトリック」などの手練手管がものの見事に決まってます。何といっても「見立て殺人」の構築が斬新であり、そして最後の落ちは「あっ!そうだったのか?」と舌打ちしたくなります。 真犯人の殺人にいたる動機も、よくあるパターンではありますが、納得できました。
昭和の終わりから平成、令和の時代の社会変成の見立てもなかなか鋭い批評性を持ち合わせていて有能な作家であると思いました。
Wikiで調べましたら作家デビュー29年目のベテランで、「イヤミス」の向こうをはる「バカミス」の第一人者だそうです。これは「下らない」という意味ではなく、バカバカしいほどに「凄い」というポジティブな意味合いだそうであの村上春樹氏の『品川猿』も何かの部門でノミネートされていたとか?お薦めの一冊です。
(レビュー:ウロボロス)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」