【「本が好き!」レビュー】『空想の海』深緑野分著
提供: 本が好き!深緑野分さんの11篇から成る短編小説集です。SF、サスペンス、ミステリー、ホラーと様々なジャンルの小説が収録されていて、次に何が飛び出してくるかわからない楽しみがあります。想像力(空想力)豊かな、才能あふれる作家さんだと思いました。
読者もそれに刺激されて、自由な発想で作品と向き合うことができます。
そうしてすべてが終わると、荒れくれた世界のはずれに、海が生まれた。
で始まる『海』は哲学的。核戦争で人類が滅亡した後の世界なのでしょうか、一人残されたヒト(?)が図書館で見つけた本を一冊ずつ海へ落としていく。それが自分がやるべきことだと信じて。
これは文明の後始末と解釈すべきなのか、それとも進化が再び始まるための糧としての本なのかと、いろんな考えが浮かんできて妄想が広がっていきます。
次の『髪を編む』は、クスッと笑ってしまう“ほっこりする”話でした。いつも妹の髪を編んであげる優しいお姉さん。妹の願掛けが思わぬ結末になる話です。
『本泥棒を呪う者は』は『この本を盗む者は』のスピンオフ作品だそうです。御倉館から盗まれた本を取り戻すために“御倉たまき”が得体の知れない魔物と取引をする話。
オリジナル作品を読んでいたらもっとワクワクするんだろうと思って、ちょっと後悔。
全体的にはちょっとブラックで、モヤっとした気持ちになる作品が多いです。
一番印象に残ったのは最後の『緑の子どもたち』です。緑の家に暮らす“あたし”と「赤」「銀」「チビ」の4人。容姿も言葉も、おそらく価値観も違う4人は話すこともなく、テリトリーを侵さないように暮らしていました。それが自転車を作るという共通の目的ができて、お互いに協力するようになるのです。争いのない世界を実現する方法を示唆しているように感じます。
『カドクラさん』も平和がテーマで、「先の戦争では負けたから、今度こそ勝つぞ!」と戦争に突入した未来の日本を描いています。ただ平和を訴えるだけでは同じ過ちを繰り返すだけだから、現実的な回避策を今から用意しておく必要があるとの思いを強くしました。
読む人によって、様々な受け止め方があるでしょう。小説とは元々そういうものですが、この短編集は特にそう思います。私にとっては、冒頭に書いた通り、いろんな刺激を受けた小説でした。
(レビュー:独醒書屋)
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