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【「本が好き!」レビュー】『死と奇術師』トム・ミード著

提供: 本が好き!

昔から密室ミステリは根強い人気だが、最近特に増えてきているように思う。
ジジ・パンディアン、キャサリン・シェルマン、エリー・グリフィス、ジム・ノイ等々、密室ミステリを(少なくとも一回は)書く作家がでてきている。1920年から1930年の黄金期ミステリスタイルが周回を経てまた流行ってきているのかもしれない。
トム・ミードもそんな黄金期ミステリスタイルの書き手の一人。本書は2022年の長編デビュー作になる。謎解きキングダム、イギリスでこういう作家がまだうまれることが嬉しい。旧き良き密室&謎解きミステリを再現する。

1930年代、ロンドン。ドイツから家族で移住してきた著名な心理学者アンセルム・リーズ博士が深夜、書斎で喉を切られ絶命した状態で発見される。現場は密室状態で、室内に犯人は隠れておらず、凶器も見当たらない。事件発生の前に怪しい訪問者がいたが、その人物の正体が分からない。
この不可解な謎に直面したロンドン警視庁の刑事ジョージ・フリントは、元奇術師ジョセフ・スペクターに事件の解決を依頼する。
博士に診てもらっていた怪しげな患者たち、博士の過去の因縁、遺産の行方、不可思議な絵画盗難事件、失踪した売れない俳優とパズルのピースがどんどん集まってくるも、どこに当てはまるのか見当もつかない。
そんな中、事件関係者の住むアパートのエレベーター内でまたしても密室殺人事件が発生する。

小粒だが不可能犯罪を三つ組み込んだ佳作で、話の長さも丁度良い。原書にはないが解決編を袋綴じにする日本オリジナルの遊び心溢れる仕様になっている。ポケミスではバリンジャー『消された時間』以来、六十四年ぶりの袋綴じだそうだ。この手のミステリが好きな人にはたまらない。

第二の殺人で誰が犯人かは薄々わかる。しかし、第一の殺人がどう起きたのか、パズルのピースを上手く嵌めることができなかった。ちょっとした閃きがあれば、ピースを余らせることなく嵌めることができるが、これがなかなか難しい。パズルの醍醐味だろう。解決編で「あー、なるほど」と納得させてくれるのが心地よい。
主人公の不思議なキャラクターも扱われるトリックも既視感はあるが、ポール・アルテと同様にトム・ミードも、コンパクトに上手にまとめる。

ジョセフ・スペクターシリーズは二作目The Murder Wheel がでている。早川書房が、シリーズをどこまで継続して訳してくれるか分からないが、続くことを願います。

(レビュー:赤井苫人

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死と奇術師

死と奇術師

1936年、ロンドン。高名な心理学者リーズ博士が、自宅の書斎で何者かに殺されているのが発見された。現場は密室状態。凶器も見つからず、死の直前に博士を訪れた謎の男の正体もわからなかった。この不可能犯罪に、元奇術師の探偵ジョセフ・スペクターが挑む。

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