だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『たとえば、葡萄』大島 真寿美著

提供: 本が好き!

最近、シリーズだとあまり分からないようにしている場合があります。この作品は、著者の印象がいいことと、書誌情報から選んだのですが、シリーズ第三作という主要情報を知らなかったため失敗した感じがありました。
巻末の宣伝ページで初めて前作の存在を知ったのです。時すでにおそし。著者には単独で楽しめるという思いがあるのでしょうが、自分の読後感ではそうは思えませんでした。
前作と主人公が違うので、スピンオフで伏線がないからという理由なのかもしれません。しかしポイントはそこではないと思います。著者や編集者は、前作のおかげで物語の広場にすっと入れるのでしょう。しかしわたしは、人物描写や状況展開の地の文が少ないこともあり、世界観を掴みきれないまま終わった感じです。もし本作に興味がありましたら、シリーズ第一作を手に取ることをお薦めします。

さて。この作品の内容を紹介しますね。
やり直すなら今だ、と思う瞬間がある、という一文で始まります。主人公は美月。二十代後半の会社員で、大手化粧品会社に勤めていたのに、とつぜん辞めるスイッチが入ってしまったのでした。

美月はシリーズ1,2の主人公の奈津の一人娘です。書誌情報では、シリーズ1,2はアラフォー女性の大人の恋愛と友情の物語とのことです。それから十年というのが、この作品の立ち位置です。

シリーズだったらそう書いておいてくれと言いましたが、一番引っかかったのは文体なんですね。ケータイ小説的な読みやすさに挑戦しているのです。それでも、最初から読んでいればもう少し世界に入れたかもしれないと思うと、ちょっと残念ですね。文体がどんな感じなのか、一頁目を引用します。

今だ! 今しかない!
それで勢いよく、えいやっ、と辞表を提出してしまったのだった。
ええええ。
出したとき、心の中で、叫んでいた。ええええ。
まじか。まじで出しちゃったよー!

改行も含めて、この通りの文体です。
著者の作品は、渦という直木賞受賞作を読んでいるので、普通の文体で書けることは知っています。だからあえての試みでしょうね。シリーズ1,2ではどうだったのか気になります。

物語は、勢いに任せた行動の美月が、子どもの頃から接していた母の友人たちに助けられ、自分のむかしの友人にも助けられつつ、コロナ禍で閉塞した状況をなんとか切り抜けていくというものです。シリーズ1,2で気に入った方にお薦めしますね。

(レビュー:たけぞう

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
たとえば、葡萄

たとえば、葡萄

まったく先の見えない状態で会社を辞めてしまった美月(28歳)。転がり込んだのは母の昔からの友人・市子(56歳)の家。昔なじみの個性の強い大人達に囲まれ、一緒に過ごすうち、真っ暗闇の絶望の中にいた美月は徐々に上を向く。
誰の心にも存在する将来への恐れや不安、葛藤……。自分と格闘する美月を周囲の大人達は優しく見守る。さりげなく、自然に、寄り添うように。
何度も心が折れそうになりながらも、やがて美月はひょんな出会いから、自分自身の夢と希望を見つけていく……。

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