【「本が好き!」レビュー】『謎解きはビリヤニとともに』アジェイ・チョウドゥリー著
提供: 本が好き!インド系のミステリーが元気だという。書評もよく見かける。さて、その1つー。
インドのコルカタの敏腕刑事・カミルは芸能界のスターの殺人事件の捜査が原因で免職となり、父の友人のサイバルがロンドンで経営しているレストランに身を寄せ、ウェイターをしていた。サイバルとその妻マヤ、娘のアンジョリと暮らしていた。
サイバルの友人で、アンジョリの親友マハと結婚している大富豪のマケシュの60歳を祝うパーティーにサイバルらは招待され、カミルはウェイターをすることになる。深夜パーティーがお開きとなった頃、マケシュの死体が見つかる。マハは警察に逮捕され、アンジョリとカミルはマハを救うため独自の捜査を開始するー。
カミルがロンドンへ移る原因となったコルカタの殺人事件、そしてロンドンの殺し、交互にストーリーが綴られていく。さらに両方に姿を現す人物がスリルを盛り上げる。大臣の息子、マケシュのボンボン息子、妖しく美しい女優、正義感あふれるカミルの元恋人マリハ、そしていつも元気なアンジョリなどキャストも彩豊かでそれぞれキャラが立っている。
ストーリーを眺めながら、どこで繋がるのか、コルカタの事件の真相は、そしてラスト、あれ、これって解決されてないよね、という謎にはもちろん光が当てられ、暗い姿が浮かび上がる。
ビリヤニ、とはインド風のまぜごはん。多く出てくるインド料理のみならずたくさんの食べ物が出てきて魅力的、また闇と光、色彩にもさりげなく配慮されているのが分かる。
序盤は特になかなか進まない感覚があったが壁の向こうの真相が薄紙がはがれていくように分かり始めると読み進めるスピードが上がる。特にすでに日本では少なくなったかもしれない友人家族同士の関係、家族の親密さにはどこか憧憬を感じてしまった。だからよけいにつらさが募る。
原題はシンプルで「THE WAITER」カミルの父は警察の元トップ。その息子の俊英がレストランのウェイターに身を落としたことが強調されている。後悔もあり、喪失もある。そしてすべてはおそらく思う通りになり、カミルはロンドンに残る。続編は「THE COOK」というそうだ。出世魚的?笑。
次の邦訳が楽しみだ。
(レビュー:Jun Shino)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」