【「本が好き!」レビュー】『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』石川陽一著
提供: 本が好き!学校、職場、ママ友等々、人が集まると必ずいじめ、ハラスメント、仲間はずれは起きてしまう。私は幸いそういうことに巻き込まれないまま人生を過ごしてきたが、本書の家族のように自分の子供が災厄に遭遇してしまう可能性がある。読んでいて強く感じた。
2017年4月、長崎県私立海星学園の高校二年生がいじめを苦に自殺する。遺されたノートからいじめの発端が、授業中に鳴ったお腹の音をからかわれた事だったと明らかになる。数名のからかいはエスカレートし、いじめへと発展。誰にも相談できず思い詰めた上での自殺だった。母親は異変に気づけなかった自分を許せず鬱状態になり、単身赴任で家を離れていた父親は自分の何気ない言葉が息子を追い込んでしまったかもしれないと悔やみ続ける。
逆縁は想像するだけで辛い。ましてや子供のサインを見逃したと思い込んだら辛さも倍になるだろう。 しかし、いじめられている子供は深刻な自己嫌悪に陥り、みじめな自分を誰にも知られたくない状態になる。優等生は特にそういう状態になりやすいとのことだ。どんなに良好な親子関係であっても子供が親にいじめを相談する事はほとんどないそうだ。
そんな悲嘆に暮れる家族に追い打ちをかけるように海星学園側は息子の死を突然死にするか、転校届を出す事を提案する。隠蔽工作をする学校側の態度に怒りと不信を抱いた両親が抗議すると家庭に問題があったのではと仄めかし責任転嫁をしようとする。 2018年11月、ようやく第三者委員会がいじめが主要因で自殺したと認定するも、海星学園側は調査報告の受入を拒否。いじめがなかったと主張しつづけ、遺族が受け取れる死亡見舞金の申請の協力も拒み続ける。 そして、2019年再び海星学園で自殺事件が起きる。
共同通信社の社員である著者の石川陽一さんは、長崎市局勤務時に海星学園の異常さを調べるため、2017年の事件の遺族とコンタクトをとる。遺族の元に来ていたメディア取材もやがて潮が引くようにいなくなり、最後に残ったのが石川さんだけだったという。 『必殺仕事人』の中村主水に憧れていた石川さんは、遺族に対する理不尽な仕打ち、地元メディアの黙殺に義憤にかられたのだろう。文章の端々に彼の正義感が感じられ、好感を覚えた。 遺族の信用を得た石川さんは学校と行政の心無い対応、隠蔽体質の実態の証拠となる音声記録を託され、2020年11月スクープをものにする。
私学故に行政処分も行われなかったが、2022年11月、遺族が学校側に謝罪と損害賠償を求める民事訴訟を起こす。おそらく長い裁判になるだろう。どういう判決になるか分からないが、正しい判決がなされることを願う。
(レビュー:赤井苫人)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」