【「本が好き!」レビュー】『屑の結晶』まさきとしか著
提供: 本が好き!「誰を殺そうと俺の自由」小野宮楠生は二人の女性を殺害した容疑で逮捕・起訴され、チャラい外見とふざけた供述から「クズ男」と呼ばれている。
弁護士の宮原貴子は、小野宮が幼少期を過ごした町へ赴き、ある女性の存在をつかむ――。
小野宮楠生(33歳)は、ビルの清掃スタッフ・亀田礼子と元交際相手の山本若菜を殺害した容疑で逮捕・起訴されている。
チャラい外見と「誰を殺そうと俺の自由だろ」という供述、逮捕時に笑顔でピースをするなどふざけた様子から「クズ男」と呼ばれ、彼を支援し続ける「クズ女」たちが現れるなど、話題に事欠かない。
小野宮を担当する弁護士の宮原貴子は、調査を進めるうち彼が嘘をついているのではないか、という疑念を抱く。
小野宮が幼少期に児童養護施設で過ごした宮城県M町へ赴き、彼と面識のあった宍戸真美という女性の存在をつかんだ宮原は、現在の真美に接触すれば小野宮の犯行動機が見えてくるのではと思ったが…
クズ男はなぜ、快哉を叫びながら人を殺したのか。
小野宮が建設現場の飯場に居た頃に知り合ったという羽崎は言う。
「あいつ途中から無実だって言い出したんでしょう?もうその時点でアウトですよ。嘘をつくときは中途半端じゃだめなんですよ。俺の哲学知ってます?嘘はつくものじゃなく完璧につくりあげる、です。嘘のなかに真実はひとつも入れちゃいけないんです。すべてを嘘にしないと、あっさり壊れちゃうんですよ。これポチにも教えたのになあ」
何とか宍戸真美を説得し拘置所に面会に行くが、小野宮は宮原と宍戸を残し面会室から出て行こうとするが扉の前で一旦立ち止まり、
「イエーイ」
小野宮は奇声をあげると、両手でピースサインを作った。つぼみが一気にほころぶような笑みになる。
逮捕された時と同じふざけた態度を見せる。しかし、それは
俺は平気だ。大丈夫だ。すべてうまくいっている。
という、クズ男と宍戸真美にしかわからないサインだったのかもしれない。
そして、それはもしかしたら楠生が自分の存在価値を求めた結果だったのだろうかと考えると切なくなった。
(レビュー:茜)
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