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【「本が好き!」レビュー】『猫の客』平出隆著

提供: 本が好き!

『2.22は猫の日』であるということで、随分前に読んだ極上の猫小説を紹介します。

《はじめ“稲妻小路”の光の中に姿を現したその猫は、隣家の飼猫となった後、庭を通ってわが家を訪れるようになる。いとおしく愛くるしい小さな訪問客との交情。しかし別れは突然、理不尽な形で訪れる。崩壊しつつある世界の片隅での小さな命との出会いと別れを描きつくして木山捷平文学賞を受賞し、フランスでも大好評の傑作小説。》と、文庫の紹介文の引用です。

著者は、詩人・作家。多摩美術大学教授。詩集『胡蝶の戦意のために』(芸術選奨新人賞)、、評論集『破船のゆくえ』、散文作品集『左手日記例言』(読売文学賞)、『伊良子清白』(芸術選奨)などがある。

「チビ」または、「シャンシャン」と呼ばれるこの物語の主人公である猫は、野良猫ではなく、れっきとした飼い猫です。しかし飼い主は、この小説の語り手である詩人と編集者であるその夫婦、ではありません。

「チビ」は、隣家に飼われている通い猫だったのです。

「チビ」との最初の出逢いを伝える文章に、一直線に心を鷲掴みにされてしまいました。

《南の大窓越しに、濡れ縁に乗ってから窓の桟に両の前足をかけてこちらを覗く、小さな仄白い影が見えた。  そこで窓を開け、冬の暁に連れられてきた来客を迎え入れると、家の気配はひといきに蘇った。  元日にはそれは初礼者となった。年賀によその家々を廻り歩く者を礼者という。めずらしくもこの礼者は、窓から入ってきてしかもひとことの祝詞も述べなかったが、きちんと両手をそろえる挨拶は知っているようだ。》

私が住んでいる田舎では、まだまだ野良猫は、少なくありませんが、都会では完全室内飼いで猫を飼っている人が大半でしょう?一昔前の野良猫が自由に色んな家を行き来して暮らせていた頃のお話です。猫と世話する人との交流がきめこまかに描写され、猫の気高さが伝わってきます。詩人が紡ぐ文章は四季折々の描写が美しく静謐で、何度でも読み返してみたくなります。

幼少期に飼っていた「シロ」、大学時代に大家さんに内緒で飼っていた「ファーゴ」。どちらも雌の捨て猫でしたが品があり、愛嬌がありました。たんなる一時期を過ごしたペットでは決してあり得ません。大袈裟にいえば、人生の一部でした。猫を愛するすべての読者へお薦めします。

(レビュー:ウロボロス

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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猫の客

猫の客

はじめ“稲妻小路”の光の中に姿を現したその猫は、隣家の飼猫となった後、庭を通ってわが家を訪れるようになる。いとおしく愛くるしい小さな訪問客との交情。しかし別れは突然、理不尽な形で訪れる。崩壊しつつある世界の片隅での小さな命との出会いと別れを描きつくして木山捷平文学賞を受賞し、フランスでも大好評の傑作小説。

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