【「本が好き!」レビュー】『ユーミンの罪』酒井順子著
提供: 本が好き!立川談志はかつてこう言った。「落語とは人間の業の肯定である」と。50周年を迎えたユーミンこと松任谷由実が日本の女性たちにしてくれたことは、まさに「肯定」である。すなわち、
『ユーミンの歌とは女の業の肯定である』
もっとモテたい、もっとお洒落したい、もっと幸せになりたい・・・という渇望だけでなく、嫉妬、怨恨、復讐、嘘といったネガティブな感情をもユーミンは肯定してくれた。そして、ユーミンはその肯定に「そんなことにつまずかないでがんばれ」という勢いも乗せて歌にしていった。
本書は、『ひこうき雲』(1973年)から『DAWN PURPLE』(1991年)までのアルバムの中から20作品をピックアップし、それぞれで表現されたユーミンの世界観について語っている。ユーミンのインタビュー記事を参考にしつつも、ほとんどが著者独自の解釈でユーミン論が展開されている。コアなファンにはそれぞれのユーミン観があるので、それと比較したり、新たな気づきを得ながら楽しむことができると思う。
私は、それほどユーミンを聴き込んでいなかったので、本書で語られる時代時代の女性たちの価値観やそれを取り巻く社会環境を読みながら、自分の青春時代(主として80年代)を思い出すこととなった。令和の時代には失われた価値観がそこにはあった。著者の言う、その時代の女性たちがもつ“助手席感”という感覚は言い得て妙で、思わず膝を打ってしまった。「あぁ、そういえばその頃の恋愛事情や女性たちの価値観はそうだったな」と懐かしい感慨を覚えながら、それらが確実に変化して今に至っていることの実感をも持った。
そして、ユーミンが50年もの長い間、その時代その時代の変わりゆく感性を歌に乗せ続けてきたことに素直に驚愕する。昨年末の紅白歌合戦で郷ひろみが「僕はただ歌ってきただけなんだけど、ユーミンは50年間歌を書き続けてきた。それが凄い。」と言っていたが、まさにその通り。特に、70年代、80年代は、変化を的確に捉えるのではなく、変化を先導してきたのではないかと思えるほど。
50年もの間、日本の女性たちを勇気づけ、背中を押し続けてきたユーミンの凄みを、本書を通じて感じて欲しい。
(レビュー:いけぴん)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」