だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『朱色の化身』塩田武士著

提供: 本が好き!

元新聞記者でライターをしている大路という男性が、一人の女性の行方を探している。
彼女辻珠緒は、福井県芦原出身の京大を出た才女で、銀行に勤めた後、独力でゲームを作成。大路は、ゲームクリエイターの彼女に取材をしている。

だが、大路が珠緒を探し始めたのは、病気の父親から依頼を受けた別件からだった。
父親はもともと芦原に住んでいたが、幼い頃町が壊滅するほどの大火事で家を失くし、芦原を離れていた。母親の死後、彼女が、興信所に、芦原で親しくしていた辻静代という女性について調べてもらっていたことを知り、その理由が知りたいというのだ。この静代が、珠緒の祖母だった。

お互いの祖母が何らかの関係を持っていたことに奇遇を感じて珠緒のことを探し始めたのだが、大路は、ある時以降珠緒が故意に姿を消していることに気付き、その端緒となったのが自分のインタビュー記事だったのではないか、と疑い始める。

賢く才能に溢れた少女。だが、幼い頃から、彼女の生活は悲惨なものだった。そこから逃れようと懸命に努力し、必死で上を目指すのに、彼女の周囲には、性別の差、生まれ育ちの差、その他にもさまざまな壁があった。そのたびに、彼女は思わずにはいられない。世の中は、なんと不公平であることか、と。

面白かったのは、珠緒の義父の連れ子の話。珠緒側の者たちからすると義父も連れ子も加害者で珠緒は被害者になるが、彼は自分たちこそが被害者だという。暴力団の男と関わりがあった女性と一緒になったために受けた被害と屈辱。物事は、本当に、見る側が変わると全く違ってくる。真実とは何だろうと思ってしまう。
とはいえ、珠緒の人生が悲惨だったことに間違いはない。

珠緒を通して描かれる、昭和の社会の歪み、差別。それは、今もまだ残っている。

(レビュー:ぷるーと

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朱色の化身

朱色の化身

「知りたい」――それは罪なのか。
昭和・平成・令和を駆け抜ける。80万部突破『罪の声』を超える圧巻のリアリズム小説。

「聞きたい、彼女の声を」 「知られてはいけない、あの罪を」

ライターの大路亨は、ガンを患う元新聞記者の父から辻珠緒という女性に会えないかと依頼を受ける。一世を風靡したゲームの開発者として知られた珠緒だったが、突如姿を消していた。珠緒の元夫や大学の学友、銀行時代の同僚等を通じて取材を重ねる亨は、彼女の人生に昭和三十一年に起きた福井の大火が大きな影響を及ぼしていることに気づく。作家デビュー十年を経た著者が、「実在」する情報をもとに丹念に紡いだ社会派ミステリーの到達点。

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