【「本が好き!」レビュー】『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』 伊東潤、空木春宵、大槻 ケンヂ、長嶋有、和嶋慎治著
提供: 本が好き!ロックバンド『人間椅子』の曲をモチーフに、五つの短編小説を収めたアンソロジー。 目を引く表紙画を担当しているのは『無限の住人』や『波よ聞いてくれ』でお馴染み、耽美的な画風の漫画家沙村広明だ。 同バンドのメンバー和嶋慎治、筋肉少女帯の大槻ケンヂ、芥川賞作家の長嶋有、歴史小説家の伊東潤、先年『感応グラン=ギニョル』でブレイクしたSF作家空木春宵の五人が寄稿し、いずれも一癖二癖ある手練れの作家たちが、曲から着想を得た異形の物語を作り上げている。 バンド名の『人間椅子』は言わずと知れた江戸川乱歩の短編から採られている。歌詞にも乱歩や夢野久作、ラヴクラフト、太宰谷崎芥川、小栗虫太郎に横溝正史――と多様な作家からの影響があり、このアンソロジー所収の諸篇にしても、そこを踏まえて書かれているようだ。巻末には和嶋による各作品の解題が付されていて、ちょっとした楽屋裏話のような役割を果たしている。
空木作品が気になっていたこと、大槻作品を久しぶりに読みたくなったことが献本応募の動機だったが、読み終えてみればどの作品も面白かった。感性に任せて書き流したようなものではなく、構成も仕掛けもしっかりしていたのが意外で、どっしりした読み応え。特に気に入ったのは、80~90年代のインディーズロックシーンの回想録も兼ねたような大槻ケンヂの秘めた恋愛と鎮魂の一編『地獄のアロハ』、へなちょこだが心温まる本書中異色の一作長嶋有『遺言状放送』、安逸へと誘う寓話和嶋慎治『暗い日曜日』、新興宗教と超能力の「新青年」的幻想偽史『超自然現象』、だろうか。
サブスクで原曲が聴けるので、読書のお供にそちらもどうぞ。
(レビュー:ときのき)
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