生きた姿を掲載!昆虫図鑑制作の困難な裏側
「子供たちのために死んだ虫(標本)ではなく生きたままの虫を撮って載せたい!」という理想のもと、「図鑑御三家」の一角である『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』の監修を担当したのが、昆虫学者の丸山宗利氏だ。
目標は2000種、期限は1年、撮影はプロカメラマンではなく、全国の昆虫愛好家。無謀な挑戦ともいえるこの図鑑作りだったが、日本全国7000種の生体を撮影、学習図鑑史上最多の2800種掲載の図鑑が出来上がる。
■1年で2000種 昆虫図鑑制作の裏側
『[カラー版] 昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』(丸山宗利著、幻冬舎刊)では、図鑑完成まで1年間、多くの人が関係し、その過程での相次ぐ問題、積み重なる疲労、ピリつく人間関係など、さまざまな出来事、図鑑制作の顛末を、監修した丸山氏、図鑑の写真の撮影を担当したカメラマンの視点を中心に紹介する。
著者の丸山宗利氏は、九州大学総合研究博物館准教授であり、アリやシロアリと共生する昆虫を専門とし、アジアにおけるその第一人者。昆虫の面白さや美しさを多くの人に伝えようと、メディアやSNSで情報発信している。
丸山氏が図鑑を制作する上で、2つの理想像があった。昆虫はその生活様式や姿かたちを含め、あらゆる生物の中でも抜きん出た多様性を持っている。そのような昆虫の多様性とどのようにして多様性になったのか、その進化の道筋をわかるようにしたいというのが、一つ目の理想像。
もう一つの理想像は、「すべての昆虫を生きた姿の写真で掲載する」ということ。これまでの図鑑の多くは、昆虫の絵や標本の写真を並べたものだが、何よりも昆虫が生きた姿が一番美しい。ただ、生きた昆虫の写真であれば何でもいいわけではない。植物や地面の上にいる写真では、昆虫の輪郭がわかりにくく、図鑑に掲載する際に小さく印刷されると、さまざまな情報が失われてしまう。なので、白い背景で撮影する「白バック」という方法が最良。今回の図鑑に向けてほとんどの写真を新しく撮り下ろす必要があった。
ただ撮影するだけではなく、虫を探して撮影しなければならない。30人以上の人たちに声をかけて撮影隊を組み、最終的に3万5000枚、7000種近い昆虫の写真が集まり、その中から2800種あまりを選んで掲載することになった。
昆虫図鑑がどのように制作されているのか。撮影の工夫や苦労、執筆など、図鑑制作の裏側を読むことができる。また、図鑑の制作という目標に突き進む人々の記録とも言える本書を読んでみてはどうだろう。
(T・N/新刊JP編集部)