【「本が好き!」レビュー】『幻の女』ウィリアム・アイリッシュ著
提供: 本が好き!ウィリアム・アイリッシュ作「幻の女」を読みました。
スコット・ヘンダーソンは怒っていました。思いつきでバー・アンセルモズに入り、酒を飲みました。ふと気づくと、隣にオレンジ色のカボチャのような変わった帽子をかぶった女がおり、スコットは彼女に、一緒に食事をしてカジノ座のショーを見に行こうと誘い、彼女は頷きました。アル・アルプという男のタクシーでメゾン・ブランシュに向かい、食事をしました。
行ってみるとショーは既に始まっていました。スコットはいつもの癖でプログラムの全部のページの角を折り曲げ。。。ショーのドラマーは何故か女に注目し。。。ショーのスター、エステラ・メンドーサが登場しました。驚いた事に、メンドーサは彼女と全く同じ帽子を被っており、それに怒ったメンドーサは女を睨み付け、観客の女達に配る花束を彼女には渡しませんでした。すると彼女は立ち上がり、スポットライトが彼女を照らしました。メンドーサは根負けして花束を渡し。。。
スコットはプログラムを捨てようとしましたが、女は記念だと言ってそれを持って帰りました。劇場を出る際、物乞いがカップを差し出し、誰かに押された女は吸っていた煙草をカップに落とし、物乞いは火傷しました。スコットは謝って物乞いに金をやり、2人はアンセルモズに戻って酒を飲んで別れました。別れ際に彼女は、大事な女と仲直りしろと言い。。。
スコットが家に帰ると、刑事に取り囲まれました。妻のマーセラが殺されていたのでした。刑事達はスコットを尋問しました。実はこの夜、マーセラとデートする予定でしたが、マーセラが突然行かないと言い出し、口論の末スコットは1人で外出したのでした。刑事は、マーセラはスコットの青いネクタイで絞め殺されていたと言いました。。。
スコットの彼女、キャロル・リッチマンが現れました。たまたまスコットの家に電話をかけたのを刑事に見つかって、尋問を受けたのでした。キャロルは刑事達の前でスコットを愛していると言い、スコットは刑事のバージェスに、キャロルを巻き込まないでくれと頼み、バージェスは了承しました。スコットはキャロルの事はマーセラにも伝えており、スコットは離婚を持ちかけていたと言いました。
マーセラとかつてのようにデートするように言ったのはキャロルでした。順序だてて話をして納得してもらうのだと言うのでした。マーセラは初めは受け入れながら、ドタキャンし、スコットをあざ笑い、スコットは1人で外出したのでした。。。しかしスコットは、あの夜会った女の事を何一つ刑事に説明できませんでした。名前も住所も、女の顔つきも、何も覚えていなかったのでした。。。
刑事はスコットのアリバイを探しました、しかしスコットが女と会った時に出会った相手は、誰一人女の事を覚えていませんでした。。。裁判が行われ、証拠はスコットに不利なものばかりでした。。。スコットに死刑の判決が下りました。。。
監獄のスコットを刑事のバージェスが見舞いました。控訴は棄却され、スコットの死刑が確定していました。しかしバージェスは、スコットは無罪なのではないかと言い出しました。圧倒的に不利だという事実が逆を意味しているのだと思い始めたのでした。そして誰か協力者を見つけろと言い、スコットは今南米にいる親友のジョン・ロンバードに頼む事にしました。
ロンバードは死刑執行日の18日前に現れ、スコットの依頼を喜んで受けました。ロンバードはまず新聞広告を出し、事件当日の夜6時ごろ、バー・アンセルモズでオレンジ色の帽子を被った女を目撃した人間を探しました。しかし誰も現れませんでした。次にロンバードはカジノ座のドアマンを訪れました。しかしドアマンは女の事は何も覚えていませんでした。
アンセルモズのバーテンダーの前に謎の女が座りました。女はバーテンダーに目を据え、じっと座っていました。バーテンダーは何の用かと尋ねましたが、女は答えませんでした。女は閉店まで長居し、閉店後、バーテンダーが帰宅すると、ずっとバーテンダーをあからさまに尾行しました。そしてバーテンダーの帰宅後も、じっと家を見張っていました。翌日も女は店に現れ、バーテンダーが休みだった次の日もバーテンダーをつけ回しました。パニックになったバーテンダーは道路に飛び出し、車に撥ねられて死にました。。。
ロンバードはあの夜2人に会ったという物乞いをつけ回していました。ロンバードは物乞いの部屋に入り、物乞いに拳銃を突きつけました。盲目を装っていた物乞いは焦り、実は目が見える事をみんなにばらすと脅迫するロンバードに、ついに女を見たと自白しました。しかもその夜の後もう一度女を見たと言い、ロンバードはバージェスを呼んで、彼の前で証言させようとしました。しかし部屋に行くと物乞いは階段から転落死していました。。。
若い女はバージェスから教えられた、カジノ座のドラマー、ミルバーンの元を訪れました。女は実はキャロルでした。演奏するミルバーンの目につく席に座り、ミルバーンは美人のキャロルに目を留めました。ミルバーンは演奏後、キャロルを誘い、マリファナパーティーに一緒に行きました。あまりの乱痴気騒ぎに嫌気が差したキャロルはミルバーンに連れ出してくれと頼み、ミルバーンはキャロルを自宅に連れ帰りました。
キャロルはミルバーンにオレンジ色の帽子の女の事を尋ね、マリファナに酔っていたミルバーンは思わず、500ドルもらったあれか、と失言しました。女を見ていないと証言する約束をして知らない男から金をもらったのでした。しかも男はミルバーンを、喋れば殺すと拳銃で脅したのでした。喋ってしまった事に気づいたミルバーンはキャロルに襲いかかり、辛くもキャロルは逃げおおせました。バージェスとミルバーンの家を訪ねると、怯えたミルバーンは自殺していました。。。
ロンバードは歌姫メンドーサの元を訪れました。メンドーサはなんとかあの夜の帽子の女を思い出しました。あの帽子はメンドーサのオリジナルだったと言い、それをデザインしたデザイナーの所に怒鳴り込んだと言いました。ロンバードはそのデザイナーを訪れ、帽子をコピーして売ったと思われた、首になったお針子の名前を聞き出しました。お針子は、帽子を売ったのはピエレットという女だったと自白し、ロンバードはピエレットに会いに行きました。ピエレットは帽子は友達にやったのだと言い、その友達はアムステルダム街のフローラだと告げました。
ロンバードはバージェスと共に、アムステルダム街を訪れましたが、フローラは犬でした。慌ててピルエットの元へ取って返しましたが、ピルエットは窓から転落死していました。。。
ロンバードは死刑執行日の3日前にスコットを見舞い、今までの経緯を話しました。スコットはもう運命を受け入れると言いながら、癖であるタバコの箱を折る動作を繰り返し、ロンバードは、ふとあの夜のプログラムもそうした折り皺がついているのかと思いつき、新聞に、事件当夜のカジノ座のプログラムを買い取ると言う広告を出しました。。。死刑執行日、ついに目当てのプログラムを持った女が現れました。。。ロンバードは、スコットの死刑を止めるべく、女を連れて直接州刑務所を目指しました。しかし女はあることに気づき。。。物語は怒涛の展開を迎えるのでした。。。
「夜は若く、彼も若かった。が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」というロマンチックな台詞と共に、この恐ろしいミステリは幕を開けます。ウィリアム・アイリッシュの代表作であるこの作品は、冒頭で妻殺しの容疑で逮捕された主人公が死刑を宣告され、事件当夜に出会った謎の女だけが主人公の無実を晴らせるにもかかわらず、主人公は女の事を良く覚えておらず、多数いる筈の証人は誰一人女の存在を認めない、という衝撃的な出だしから始まります。主人公を救おうと、様々な人達が事件に関わりますが、謎は二転三転し、ついに衝撃の結末を迎えます。1942年の作品ですが、少しの劣化も見られません。大層楽しみました。
(レビュー:rodolfo1)
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