【「本が好き!」レビュー】『時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙』ブライアン・グリーン著
提供: 本が好き!『宇宙を織りなすもの』、『エレガントな宇宙』(あ! まだレビュー書いていなかったのかぁ)などの良質なポピュラー・サイエンスの本を書いてくれる著者による分かり易い本です。
本書では、この宇宙がどのようにして生まれ、そこにどうやって恒星や惑星が作られ、そこにいかにして生命が生まれたのか?
その生命はどのように進化し、一見、進化(生存)に有利とも思えない物語、宗教、芸術などが発展したのか(そんなことにうつつを抜かしている間に獲物の一頭も多く捕ってくればより生存し易いのに)?
そして、この宇宙はこの先どうなっていき、最後はどうなってしまうのか? ギリギリ生命(意識・思考)が何らかの方法で生き延びたとしてそれはどうなるのか?
という非常にロング・スパンな視点で、この宇宙の始まりから終わりまでを通して見ていくという本です。
数学、物理学を基本とした一冊なのですが数式などは出てきませんのでご安心ください。一般向けに平易に解き起こしてくれますので私のような文系の者でも十分に読みこなせます(できれば相対性理論や量子物理学についてある程度の知識があればなお理解し易いでしょう)。
著者が本書で使う『武器』は二つ。
熱力学の第二法則(エントロピー)と『進化』です。この二つを巧みに使って分かり易く説明してくれます(やや気になったのは、エントロピーに関する説明の中で、『高い』と『低い』が逆じゃないの? と思っちゃったところがあるのですが、これは私の理解が間違っている? それとも誤植?……まあ、その程度の知識でも読めちゃうのですよ)。
宇宙の成り立ちや、その終末に関する記述は分かり易いですし、こうなるんだ~(もちろん異説もあります)とその仕組みに納得させられてしまいます。納得させるだけの文章力もあるということでしょう。
で。残念ながら、この宇宙のこれから先はどうも悲観的なことになりそうです。とは言え、それは遥か先のお話ではあるんですけれど。
概ね納得できる内容なのですが、間に挟まる物語、宗教、芸術あたりの心の問題については(まだよく分からないことが多いこともあり)、ちょっと「そうかな~」と感じるところもありました。
私たちは、この宇宙が作られ、その中に地球という絶妙に生物が生まれやすい環境があり、そこで生命が育まれ、人類が進化したことがとてつもない偶然と感じてしまうのではないかと思うのですが、物凄く長大なスパンで考えればそれは成るべくして成ったとも言えそうです。
どこかで生命が生まれるのは必然とも言えそう。
ただ、一方で、ほんのちょっとした違いであなたや私は生まれなかったということも事実であり、こうしてあなたや私がいるということは物凄く幸運なことでもあるとも説明します。
遥か久遠の時と共に生み出された現在、そしてこれから訪れる未来に思いをはせてみるのもよろしいのではないでしょうか。なかなかの大冊で読み応え十分ですが、決して歯が立たないような本ではないので腰を据えて取り組んでみると良いと思います。
良書ではないでしょうか。
(レビュー:ef)
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