【「本が好き!」レビュー】『どうか、彼女が死にますように』喜友名トト著
提供: 本が好き!『おばさんのごちそう』という五味太郎さんの絵本がある。魔法使いのおばさんは食器やテーブルなどを魔法でつくっていくけれど、肝心の料理は電子レンジ(のような)機械を押して「はい、できあがり」。そう、昔から続く魔法と現代の科学技術は非常に近いものがある。
大学2年生の夏希はイギリス由来の魔法使いの末裔である。イギリス人魔法使いである祖母・リリーが日本人サーファーに恋をして日本にわたってきたことに由来する。リリーがいうには「誰かを笑顔にしたいと願うほど魔法使いの力は強くなる」「その願いが届き、大切な誰かを心から幸せにできたと時、新しい魔法が生まれる」という。
夏希は人の顔色を窺いつつ陽気に振る舞って、人を笑顔にさせるようなちょっとした魔法しか覚えていない。体力を使う魔法よりも現代の科学技術の方を信頼しているようだ。そんな夏希の前に現われたのが,感情を表情に出さない美しい同級生・更紗である。彼女から「いつも、みんなとヘラヘラしている人」と言われショックを受けた夏希。無表情なまま自分のことを見透かした更紗を笑わそうとあれこれするうちに夏樹は恋心を抱いていく。そして、更紗の心も夏希へと動いていく。しかし、笑えない理由が更紗にはあった。
否定的な意味ではなく、どこかで見た設定の組み合わせが心地よい。現代に生きる(しょぼい)魔法使いという点では夏希に魔女の宅急便のキキを重ね合わせてしまう。夏希の使い魔・黒猫ロコはもちろんジジである。ロコの赤いスカーフがキーポイントという点はマンガ『日常』の阪本さんが頭をよぎる。表情を変えない更紗は『ハルヒの憂鬱』の長門有希や『エヴァンゲリオン』の綾波レイを彷彿とさせる。その更紗が笑わない理由は『世界の中心で愛を叫ぶ』に通じるものがあるし、この小説のメインとなる表紙の光景は新海誠ワールドのそれである。 これら日本人にはおなじみのキャラ・舞台設定を徹底的に活かし、本当の意味で人を愛する大人になっていく男女の軌跡をメリハリ付いた起承転結で描いている。十分に映画化できる内容だし、星降る表紙のシーンなんて、大画面で見てみたい。
ラストの展開については意見が分かれるだろうが、今の若者ならこのラストの方を支持するのだろうか。実はこの本を買おうか迷っていたという長女に読ませて感想を聞こうと思う。
それにしても、タイトルだけを見てしまうと、おどろおどろしい内容かと思ってしまう。確かにラストとこのタイトルが強く関連するのだけれど、内容が良いだけにタイトルで本当に損している。もったいないと思う。
(レビュー:祐太郎)
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