【「本が好き!」レビュー】『兎の眼』灰谷健次郎著
提供: 本が好き!大学を卒業したばかりの若い女の先生が受け持ったクラスで、鉄三という名の生徒がカエルを生きたまま引き裂いた。
普段から一言も話さず、教科書を開くこともノートをとることもない少年の蛮行に小谷先生は吐いて泣くばかりだった。
さらにニヵ月後、今度は鉄三が同じクラスの子供につかみかかって骨が見えるほど酷く噛みつくという事件を起こす。
その場では卒倒してしまった小谷先生は二日ほど学校を休んだが、三日目に出てきた時に鉄三の祖父に何事か耳打ちされて考え込む。
鉄三はゴミ処理場で働く労働者が家族と共に住む長屋に祖父と犬のキチと住んでいた。
処理場の子供たちが差別されたりからかわれていることは学校でも時おり問題になっていたが、処理場の子供たちは仲良く団結しています。
仲間内でさえほとんど話さない鉄三にも積極的に話しかけて一緒に遊んでいる。
小谷先生は鉄三の様子を見に学校が終わった後で家庭訪問を繰り返し、祖父や仲間の子供たちと交流を深めていくことで鉄三のことを知ろうとしていた。
今だったら発達障害とレッテルを貼りつけ、特別学級への通学を勧めるか、何をしても放置して空気のような扱いを受けそうだ。
だが小谷先生はこの鉄三だけでなく、精神遅滞で養護学校にいく予定だが1ヶ月普通学級で預かって欲しいと言われた少女の世話も懸命に取り組んでいく。
最初はそのせいで学力が落ちたら困ると親たちからクレームが入ることもあったが、どこかへ走っていってしまい粗相もする少女と交流していくうちに生徒たちが自発的に面倒を見ると言い始めた。
内向的だった息子が変わったと小谷先生を支持する声もあがり、学校で何を学ぶのかを改めて考えさせられる。
鉄三も飼っていたハエを研究対象にして学ばせようとする小谷先生の指導が成功して、ハエ博士として新聞に紹介されたりもします。
好きこそ物の上手なれとばかりに図鑑を買い与えてハエの名前を書き取りさせたり、スケッチさせたり、観察記録をつけたりとできることは幅広い。
タイトルになっている「兎の眼」は奈良の西大寺にある善財童子の彫像の、静かな光をたたえて優しい瞳からきています。
善財童子は様々な指導者を得て悟りを開いたとされているが、小谷先生も童子や童女たちから学んで成長していくのだろう。
新婚家庭はうまくいかなさそうだが、それもまた経験ですね。
(レビュー:DB)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」