だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『いずれすべては海の中に』サラ・ピンスカー著

提供: 本が好き!

タイトルと装丁に惹かれて手を伸ばしたSF短篇集。

少し長めの中篇を含めて全部で13篇の作品が収録されている。

文体も好みで、どれもこれも設定もなかなかいい感じなのだが、ラストがなあ!
後味が悪いというより、なんか置いてけぼりにされてしまう……という作品も何点か。
これはSF慣れしていない読み手の方に原因があるのかもしれないが。

これは最後まで読み通せないかも……と思いつつも、もう一つ、あともう一つだけ……と、読んでいくうちにだんだん良い感じになってきた。

長く連れ添ってきた夫が脳梗塞で倒れたことをきっかけに、これまでのあれこれを振り返る妻は、夫が若かりし頃の情熱を失った原因を、突き止めようと決意して…。
『深淵をあとに歓喜して』は、いろいろと切ない。

海にセイレーンたちが現れたせいで、船乗り達はみな足止めをくらっていた。
“セイレーンの声は子供にはきかない”という説に賭けた船長はぼくに一縷の望みを託す。
だがぼくには、人には言えない秘密があって……。
『孤独な船乗りはだれ一人』は、この世界にもう少し留まっていたいと思わせる作品だ。

宇宙船に乗り込んだ世代と、宇宙船で生まれ育った世代、さらには第三世代、第四世代の意識のズレが浮き彫りに。
歴史の教師である主人公に据えることで、歴史や文化を継承することの意味を問う『風はさまよう』は、なかなかの社会派だ。

『オープン・ロードの聖母様』は先に翻訳刊行されている長篇『新しい時代への歌』の元になる中篇とのこと。
ライブといえば、家庭や酒場に向けた3D映像の配信が一般的になった時代に、生演奏にこだわって巡業を続けるミュージシャンたちの物語。

並行世界のサラ・ピンスカーたちを大勢集めて開かれた集会で起きた殺人事件。
殺されたのはサラ・ピンスカー、探偵役もサラ・ピンスカー、そしてもちろん犯人も!?
『そして(Nマイナス1)人しかいなくなった』はもちろん、クリスティにひっかけてある。

各作品との相性のせいか、だんだんと慣れてきたせいなのかは、いまひとつわからないが、気に入った作品は、後半に収録されたものばかりだった。

こういうことがあるから、短編集は途中でやめられない。

(レビュー:かもめ通信

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
いずれすべては海の中に

いずれすべては海の中に

最新の義手が道路と繫がった男の話(「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」)、世代間宇宙船の中で受け継がれる記憶と歴史と音楽(「風はさまよう」)、クジラを運転して旅をするという奇妙な仕事の終わりに待つ予想外の結末(「イッカク」)、並行世界のサラ・ピンスカーたちが集まるサラコンで起きた殺人事件をサラ・ピンスカーのひとりが解決するSFミステリ(「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」)など。

奇想の海に呑まれ、たゆたい、息を継ぎ、泳ぎ続ける。その果てに待つものは――。静かな筆致で描かれる、不思議で愛おしいフィリップ・K・ディック賞を受賞した異色短篇集。

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