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【「本が好き!」レビュー】『劇場』ミハイル・ブルガーコフ著

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『船舶通信』のしがない記者兼校正係マクスードフは、昼は新聞の仕事をしながら、夜は小説を書き続けていた。ある夜、突然部屋を訪れた著名な編集者ルドルフィによって文芸誌に掲載が決まり、作家の仲間入りを果たしたが、それが苦難の始まりだった。ルドルフィは発売前の雑誌と共に姿を消し、〈独立劇場〉の依頼で自作を戯曲化するも、演出家の介入や劇場内の対立など、様々な障害によって上演は先延ばしされる。

 ガーディアン必読1000冊に挙がっている『巨匠とマルガリータ』は、ブルガーコフの死後まとめられた。生前の彼がどうだったかを知りたいならば、本作のマクスードフの動きを追えば足りる。とはいっても、冒頭で何者かが明かしているように、マクスードフは自殺している。わざわざ 故人の作品に出てくるような劇場や人間はどこにも存在していないし、またこれまでに存在したためしはなかった

-つまりこの作品はフィクションです、と断っている-にも関わらず、劇場のモデルは、やっとこさブルガーコフが舞台をかけることができたモスクワ芸術座、メフィストフェレスのように思われている編集者ルドルフィのモデルは『ロシア』の編集長レジネフなど、名前を変えただけのノンフィクションなのである。

 スターリン体制下のロシアで反革命的との批判を浴び、劇作に活路を見出すも上演中止が相次ぎ、困難な状況に陥ったブルガーコフ自身の体験に基づいており、カオスの中で「自分に力がないから戯曲にこんな差し出口が入るんだ!」と絶望した場面で未完となっているので、救いがない。「若手ばっかりの役で重鎮が演じる役がないのはけしからん」と怒られたり、全然原稿を読んでないセレブが偉そうに感想を述べている横でマクスードフが沸々と怒りをたぎらせていたりと、スラップスティックコメディになる要素はふんだんに持ちながら、そちらに流れていかないのは、冒頭の主人公自殺という事実があるからだ。しかし自分のモデルを自殺に追い込むとは、かなり追い詰められていたのか。

(レビュー:星落秋風五丈原

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独立劇場のために戯曲を執筆したマクスードフだが、様々な障害によって上演は先延ばしに。劇場の複雑な機構に翻弄される作家の悲喜劇。

『船舶通信』のしがない記者兼校正係マクスードフは、昼は新聞の仕事をしながら、夜は小説を書き続けていた。ある夜、突然部屋を訪れた著名な編集者ルドルフィによって文芸誌に掲載が決まり、作家の仲間入りを果たしたマクスードフだったが、それが苦難の始まりだった。ルドルフィは発売前の雑誌と共に姿を消し、〈独立劇場〉の依頼で自作を戯曲化するも、演出家の介入や劇場内の対立など、様々な障害によって上演は先延ばしされる。劇場の複雑な機構に翻弄されながらもその虜となっていく作家の悲喜劇を戯画的に描いたこの作品は、スターリン体制下のロシアで反革命的との批判を浴び、劇作に活路を見出すも上演中止が相次ぎ、困難な状況に陥ったブルガーコフ自身の体験に基づいている。発表の当てもないまま書き続けられ、没後16年に初めて出版されて劇的な復活を果たした未完の傑作。

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