だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『裸の華』桜木紫乃著

提供: 本が好き!

桜木紫乃さんの小説を読むのは「ホテルローヤル」 についで二冊目です。この作品はホテルローヤルの3年後に発表されています。ホテルローヤルは短編集でしたが、こちらは長編で作者の個性がより分かり易いのかも。

物語は40歳になった元ストリッパーのフジワラ・ノリカ(本名なのか?)が古巣の札幌に帰ってくるところからです。ノリカのプロフィールは実はあまり明らかにされません。札幌のススキノにある今は閉鎖された劇場で二十歳の頃にストリッパーのキャリアをスタートさせ、1年ほど前に神奈川の劇場で公演中に大腿骨を折る怪我をして引退を決意したところです。

ススキノの空き店舗になっていたバーを居抜きで借り、バーテンダーと若い女性ダンサー2名を雇ってダンスショーを見せるバー「NORIKA」を開店します。本人はストリッパーでしたが、求めるダンサーはクラシックバレーの経験のあるダンサーでした。バーのフロアーの一角を使って二人のダンサーが音楽に合わせて踊るという趣向で、本格的なダンスの技術をダンサーに求めているようです。彼女も初めからストリッパーになろうとしたのではなかったのでしょう。

二人のダンサーはバーテンダーのジンが見つけてきます。一人は23歳のみずほで、もう一人は20歳のみのりです。みずほは5歳から、みのりは3歳からバレエを習ってきたとか。面接試験はピアソラの「リベルタンゴ」を二人で踊ります(タンゴとはいえ踊り易い曲ではなさそうですが)。みずほは愛嬌があるが、技術が足りず、みのりは技術は高いが無表情で感情が外に伝わりません。正反対の二人ですが、ノリカの踊りを見た二人は感銘を受けたのでしょう、熱心に練習しどんどん上手くなります。

ショーのオープニングは二人で踊る「リベルタンゴ」で、とりはみのりがソロで踊るケニー・Gの「ハバナ」です。

技術はあるのにこれまで評価されず、挫折を味わってきたみのりはノリカに心酔してしまいます。物語の後半はみのりとノリカの関係が軸になって進行して行きます。これ以上書くとこれから読もうという人の楽しみを奪うかもしれないので・・・

店に地元TV局の人間やダンス界の大物が現れたり、バーテンダーの過去が明らかになったり、そこにノリカが通う女性専用のセックスサービスを行うお店の話しが混ざったり・・・サイドストーリーは多彩ですが、本筋は本当は踊ることしか望んではいないノリカと、その分身のようなみのりの物語のようなのです。

この物語には善人しか出てこないし、一種のサクセスストーリーなのですが、著者は性風俗の話題をどうしても入れたくなるようです。その代わり恋愛話は淡泊というのが特徴の作家なのかなあ。

ところで僕自身はバーテンダーのいる店になんか滅多に行かなかったし、ストリップはおろかダンサーのいる店にも一度くらいしか行ったことがありません。僕の知らない世界を見せてくれる作家さんのようです。

(レビュー:三太郎

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
裸の華

裸の華

累計82万部超え『ホテルローヤル』から4年。
踊りたい──。また舞台で。ストリッパーノリカの矜持と葛藤。

舞台上の骨折で引退を決意したストリッパーのノリカ。心機一転、故郷札幌で店を開くことに。訳ありの凄腕バーテンダーやタイプの違う二人の女性ダンサーと店は軌道に乗り始める。しかし、私も舞台に立ちたい、輝きたいという気持ちは募るばかりで──。ノリカの表現者としての矜持と葛藤。そして、胸が詰まるような踊り子たちの鮮烈な生き様を描く、直木賞受賞作『ホテルローヤル』に連なる一冊。

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