【「本が好き!」レビュー】『エーリッヒ・ケストナー こわれた時代』クラウス・コルドン著
提供: 本が好き!12年間、野蛮なナチスに執筆を禁じられ、二度逮捕され、二度釈放され、なんとか生きぬいてきた作家ケストナーは、もう1933年以前の若者ではなくなっていた。12年間、沈黙を強いられ、黙殺され、彼は変わった。変わらなかったのは、卓越した文筆家であることだけだ。(本文より)
エーリッヒ・ケストナーと言えば「飛ぶ教室」をはじめとする児童文学者という認識しかもっていなかったのですが、実は詩人であり、劇作家であり、児童向け以外の作品も多く残した作家だということを、この本を読んで初めて知りました。
そして何よりも驚いたのは、ナチスドイツがドイツ社会を支配し、多くの文学作品が発行禁止や焚書された時代に、ケストナーの作品も「エミールと探偵たち」以外、ほとんどの作品が発行禁止になっていたということです。そんな政府のやり方に異論を唱えたケストナーは「反政府主義者」というレッテルを貼られ、作家としての活動が全くできなくなっただけでなく、国内の移動すらままならない状態だったのです。
友人たちは国外へ逃れることを勧めましたが、ケストナーは自分の国であるドイツに住み続けることを決断し、終戦の日までその決意はまったく揺るぎませんでした。とはいえ、戦火の中で彼が生き残れたのは、単に運が良かっただけというわけではありません。友人たちが密告者や空襲から彼を守ってくれたおかげなのです。
ケストナーは自分の信念のために様々な摩擦を起こして、彼のことを嫌う人もかなりいたようです。でもそれ以上に彼を信じ、味方になってくれた人も多かったからこそ、後世に素晴らしい作品を残すことができたのです。
戦時中の暮らしは、文章を読んでいるだけでも息苦しくなってきます。防空壕や地下室へ避難している間も、遠くに住む両親の安否を心配しているところは、現在のウクライナの人たちの状況を想像してしまいます。どうして戦争なんかしなければいけないんだ!戦争をやりたがっているのは国の上の方の人たちだけで、一般の国民はそんなものを望んでいない!という思いが伝わってきました。
1949年に、戦争がいかに愚かなものかという思いを込めてケストナーが書いた「動物会議」を読んでみようと思います。
(レビュー:Roko)
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