だれかに話したくなる本の話

コロナで供給過多に 中年パパ活女性の苦境

富める者はさらに富み、貧しい者はさらに貧しくなるという格差の拡大はかねてから日本でも問題視されてきた。そこにこのコロナ禍である。働き口がなくなり、生計を立てられなくなった人は、普段なら絶対に選ばなかった道でも選ばざるを得ない。「パパ活」もその一つだ。

■パパ活を取り巻く厳しい現実とは

『パパ活女子』(中村淳彦著、幻冬舎刊)によると、「パパ活」という言葉が生まれたのは2016年。いまだ統一された定義はなく、ギャラ飲みのような静的関係を伴わないものから援助交際や売春、愛人までがすべて「パパ活」と呼ばれているのが実態だが、ここにコロナ禍で生活に窮した女性が流れ込んでいる現状がある。

パパ側の考えが「若い女性と疑似恋愛を楽しみたい」だとしたら、女性側の考えは「短時間やスキマ時間で、楽にお金を稼ぎたい」だ。その利害が一致することでパパ活は成立する。

ただそこには厳しい現実が立ちはだかっている。
パパ活は景気に左右されやすいもの。景気が悪化すればパパ活を始める女性は増えるが、「パパ」は減る。コロナ禍で緊急事態宣言が初めて発出された2020年4月以降、パパ活市場から飲食店経営者が一斉に引いたというエピソードはそのことをよく表している。現在のパパ活市場は供給過多であり、始めたはいいが、思ったようにお金を稼げるかというと、そう簡単ではないというのが実情のようだ。

もちろん、若くて容姿に優れ、男性側の需要を満たす一部の女性は簡単にパパを見つけ、定期的にお金を受け取るケースもある。ただ、それも長くは続かないと考えた方がいい。特に日本の場合「女性は若い方がいい」という価値観が根強く、パパ活をする男性側の需要はまさにこの価値観を反映したものになる。

女性が成熟する30歳になると大人の関係を拒絶する茶飯は通用しなくなり、35歳になると男性が提示する価格は下がっていく。人生経験が豊富になる40歳になると、男性たちは露骨に買い叩きに走り、20代女性の半額以下にまで評価は下がる。(P 195より)

年齢を重ねれば重ねるほど、得られるお金は減り、男性からの対応はおざなりになり、相手をする男性の質は下がり、嫌な思いをする中で身も心も削られていく。多くの女性はわかっていることだろうが、パパ活は誰もが簡単に稼げるものではないし、いつまでもできるものでもない。

学費を稼ぐためにパパ活を始めた大学生、自己評価だけが高く相手の需要にマッチしないため相手が見つからない若い女性、夜の街の仕事を辞めたことで生活が立ち行かなくなり、買い叩かれながらもパパ活をするしかない55歳の元ホステス。本書ではさまざまな女性がパパ活を始めるようになった経緯と実態が明かされる。

彼女たちを批判する、あるいはパパ活に興じる男性たちを批判するのは簡単だが、それでパパ活がなくなることはない。男性と比較して女性の賃金が低く、貧困に陥りやすいといういびつな日本社会が続く限り、パパ活もまた続いていく。

「これも一種の自助である」と肯定することはできないが、背に腹はかえられぬ状況でパパ活に走る女性たちを否定もできない。社会のひっそりとした片隅に光をあてる一冊だ。

(新刊JP編集部)

パパ活女子

パパ活女子

「パパ活」とは、女性がデートの見返りにお金を援助してくれる男性を探すこと。主な出会いの場は、会員男性へ女性を紹介する交際クラブか、男女双方が直接連絡をとりあうオンラインアプリ。いずれもマッチングした男女は、まず金額、会う頻度などの条件を決め、関係を築いていく。利用者は、お金が目的の若い女性と、疑似恋愛を求める社会的地位の高い中年男性だ。ここにコロナ禍で困窮した女性たちが一気になだれ込んできた。パパ活は、セーフティネットからこぼれ落ちた女性たちの必死の自助の場なのだ。拡大する格差に劣化する性愛、日本のいびつな現実を異能のルポライターが活写する。

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