【「本が好き!」レビュー】『レンブラントの身震い』マーカス デュ・ソートイ著
提供: 本が好き!マーカス・デュ・ソートイは『素数の音楽』を読んだことがありますが、数学者のソートイとレンブラントに何の関係があるんだろうと思って手に取りました。
読んでみたらAIは創造性という人間の能力を持つことができるかという本で、タイトルになっているように美術や音楽、文学、そして著者の専門である数学の世界へと挑戦するAIを紹介しています。
最初に登場するのは世界最古とも言われる囲碁のゲームで、人間の囲碁チャンピオンを打ち負かした「アルファ碁」というAIを生んだディープマインド社のハサビスとそのチームの話です。
ハラハラするような対局の様子を楽しみながら、ゲームに勝てるアルゴリズムを組んでいく方法がわかりやすく説明されていて面白い。
「DeepBlue」が人間のチェスチャンピオンに勝利したのが1997年、そして2015年にコンピュータが人間に打ち勝つことが最も難しいと言われていた囲碁においてもAIが勝ったのだ。
ゲームにおいて人間を超えたAIが、今度は創造性を持つことに挑戦するのもプログラマーとしては興味深い命題だろう。
絵画の分野でレンブラントが選ばれたのは作品の枚数が多いので十分なデータが得られるだろうということだったようですが、レンブラントの346枚の絵をアルゴリズムで調べて、それをもとに三十代から四十代の髭がある白人男性の肖像画をAIに描かせてみたそうです。
結果はレンブラント派のような作品が仕上がったが、レンブラントの魔法を持ってはおらず本物のレンブラントの傑作すべてに向き合ったときに人が感じるという「レンブラントの身震い」を引き出すことはできなかったそうだ。
それでも絵画の世界が数学的なのはよくわかった。
面白かったのは、筆者が妻に誘われてゲルハルト・リヒターの展覧会に行き、「4900Farben」という作品を数学で解き明かそうと夢中になった話です。
音楽の方ではバッハの作曲に対抗しようとしたAIの話が出てくる。
音楽の中に隠れているアルゴリズムの話も面白いが、それよりも大バッハと息子のCPEバッハとのフルードリヒ大王の前での才能合戦の方が面白かった。
文学ではアルゴリズムがデーターベースを探し回ってゼロから理解を得ようとする『ザ・シーカー』という物語を書いているそうです。
やはり作家は自分自身を書くというのは本当だと思った。
ソートイ教授の研究しているシンメトリーの話や素数の話、それに同僚のアンドリュー・ワイルズ博士が証明したフェルマーの最終定理の話も出てきます。
ソートイ教授が「ゲーム・オブ・スローンズ」ファンだってこともわかってしまった。
なんでも物語の最初の方をアルゴリズムで分析した結果重要な人物としてサンサ・スターク、ティリオン・ラニスター、そしてジョン・スノウが上がったという。
数学の時間にこんな話が出てくれば、もう少し数学も好きになったかもしれない。
(レビュー:DB)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」