だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『世界からバナナがなくなるまえに: 食糧危機に立ち向かう科学者たち』ロブ・ダン著

提供: 本が好き!

バナナほど季節も関係なく一年を通して買える果物も少ないだろう。
我が家でも朝食にはヨーグルトとバナナがセットでついてくるパターンが多いのですが、そのバナナがどのように育てられて運ばれてきているのかを考えさせられるのが本書です。
中米のバナナプランテーションで育てられ輸送システムに乗って輸出されるバナナは、味がよく産出量が多い標本をクローンで増やして植えた結果、遺伝的に同一の巨大なバナナ畑を作り出した。
もともと野生のバナナにはサイズや味の違い、デザート用や主食用のバナナなど多様性があり病原体もまた多様性があった。
だが遺伝的に同一の栽培化されたバナナでは、もし病原体が侵入すれば広大なプランテーションが全滅する。
バナナに限らず世界中で食用として栽培されている植物には、どれもこの同一性による危険が潜在している。

十九世紀半ばにアイルランドで起きたジャガイモ飢饉はジャガイモ疫病によりジャガイモ畑が全滅したことで引き起こされていた。
もともと南米原産のジャガイモをヨーロッパに輸入した時に、限られた品種しか栽培しなかったのが原因のようです。
そしてジャガイモで土地当たりの生産できるカロリーが増えた結果人口が増え、土地が瘦せていたためジャガイモ依存度の高かったアイルランドでは壮絶な飢饉に見舞われた。
これがアイルランドからアメリカへ大量の移民が流れる原因となるが、それは歴史の話ですね。
もともとアンデスで育てられていたジャガイモは数千種類もあったが、ヨーロッパに伝えられたのは一つの品種のみ。
しかも芋を植え直して次の世代に伝えていったためクローン状態だったらしい。
そのためジャガイモ疫病の原因である卵菌へ耐性を持たないジャガイモは全滅したという。
何種類も植えていれば全滅は防げただろうという話ですね。
このジャガイモ飢饉に学ぶことなく、今でもバナナや大量に生産される食糧はクローンのようなものが多いらしい。

ここから植物の病原菌や、伝播を媒介する昆虫の話などが語られていきます。
殺虫剤を撒くことで一度は害虫の被害が減るが、益虫も根こそぎ死んだ結果その後はより害虫の被害が拡大したという話も出てきます。
ベランダにハーブを植えてるのですが、今年の夏はコナカイガラムシがついてしまって大変だった。
カカオの木もこのコナカイガラムシがついてダメになってしまうことがあるそうですが、コナカイガラムシを保護するアリの集団との関係が複雑に絡み合っているのが熱帯雨林の姿だという。
アリを持ち込むことなくカカオのみ植えたプランテーションでは、やはり害虫が原因の木の病気が流行してチョコレートの生産量が大幅に落ち込んだそうだ。 植物の多様性を研究するために様々な種類の種を集める施設の話もいくつか出てきます。
農業のやり方を問いかける本でもあり、植物にも多様性が必要なんだと教えてくれる本でした。

(レビュー:DB

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
世界からバナナがなくなるまえに: 食糧危機に立ち向かう科学者たち

世界からバナナがなくなるまえに: 食糧危機に立ち向かう科学者たち

米、小麦、砂糖、トウモロコシ、豆、ジャガイモ、ヤシ油…
わたしたちは、たった12種類の作物で生きている。

人間が生きるうえで欠かすことのできない主食作物が、同時多発的な病原菌や害虫の猛威に襲われたとき、わたしたちの食卓はどうなってしまうのか。大規模なアグリビジネスがもたらした悲劇、作物破壊の危機に立ち向かう科学者の軌跡をたどりながら、いまわたしたちにできることは何か、考える。

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