【「本が好き!」レビュー】『最後の挨拶 His Last Bow』小林エリカ著
提供: 本が好き!新聞書評で、著者の小林エリカさんの父がシャーロックホームズの有名な翻訳者であることを知り、題名がホームズにあやかっていたので読んでみることにしました。
新聞書評から、わたしは追想録のエッセーみたいなものを想像していました。
完全に誤解していました。この作品は小説です。
読了後、著者の経験が色濃く反映されていると感じました。
だから追想録的な小説です。自伝的小説の一種と言えるかもしれません。
最後の挨拶と交霊の二篇が収録されています。
わたしは最後の挨拶の世界観がつかめず、交霊を読んで著者の書きたかったことを理解しました。
もし迷子になりかけた人がいたら、先に交霊を読むことをお薦めします。
最後の挨拶は、ホームズの翻訳を手がける父と、母、祖父、娘四人の家族模様の物語です。各章のタイトルをホームズシリーズになぞらえています。
ただ、これも曲者でした。
プロローグの次の章題が習作。著者のこめた意図が伝わりませんでした。
緋色の研究の題名は、ホームズファンじゃなくてもご存知と思います。
それを著者の父は、緋色の習作と翻訳しているのです。
他に、サインという章題もあります。こちらで、なんとなく分かりました。
四つの署名のほうが一般的と思いますが。
一番の問題は、各章をホームズシリーズになぞらえている行為そのものの意味が分からなかったことです。
また、翻訳者である父、支えている母、祖父、娘の話がごちゃまぜになっていて、誰の話なのかしばしば迷子になりました。
おそらく著者の中にあふれるほどの情報量があって、知らないうちに文章が情報不足になってしまったのかもしれません。
残念です。
併録の交霊は分かりやすい作品です。
名も無き幽霊の話です。物語は幽霊の視点で進んでいきます。
現実世界で交霊者と称する人を知り、交霊している場に出かけては自分が呼ばれるのを期待して待っています。
呼ばれる気配はいっこうにありません。
そんなことが繰り返されていきます。
この話と、最後の挨拶の共通点は死者との交流です。
翻訳者とは、すでに亡くなった著者の魂を、作品の翻訳を通じて生き返らせることではないのかというメッセージを行間から受け取りました。
そうなのかもしれません。参考になれば。
(レビュー:たけぞう)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」