だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『外来生物のきもち』大島健夫著

提供: 本が好き!

日本国内に本来生息していない生物を外来種と呼ぶ。
外来種は“悪”のレッテルが貼られ、駆除することが善行のように高く評価されることもよくある。
池の水を抜くことは、ドキドキワクワクのイベントのように放映されている。
でも、これって正しいことなの?
外来種と称される動植物が日本列島で繁殖してしまったことには、それなりの背景事情がある。
本書はそんな背景事情を外来種“本人”の口から吐露させたものである。
果たして外来種は“悪”なのか、それとも真の黒幕が存在するのか・・・

本書には38種類もの動植物が登壇し、それぞれの本音をこぼしてくれる。
テレビなんかで何度もお目にかかる有名どころから、その存在すら知らなかったレアものまで幅広いラインナップとなっている。   個人的には、やはりミシシッピーアカミミガメが気になる。
いまや国の名勝として指定されている日本庭園の池にも住み着いている、外来種の代表格のような存在になってしまった。
子どものころには縁日で売られていたっけ。
掬っていたのだったかな?
本書でもそんな事情が吐露されていた。
小さくてかわいいミドリガメは幼少期の姿で、大きくなるとなかなかの暴れん坊に。
そうして飼い切れなくなった親子は、かわいいペットを野に放してやったのだ。
「野生に帰りなさい」と、野生で育ったことのないカメを・・・
この優しい行為が全国各地で積み重ねられ、いまや多くの河川がアカミミガメだらけ・・・

フイリマングースは、ハンターとして野に放たれた。
ターゲットは猛毒蛇のハブ。
持ち込まれたマングースの出身はインドのガンジス川だという。
持ち込んだ人物の名前まで記されているが、この人物はウシガエルを最初に日本に持ち込んだそうだ。
さて、マングースはハブを狩ったかといえば、そんなことするわけがない。
安全で、楽に狩れて、さらにおいしそうな小動物に目を付けたのだ。
アマミノクロウサギやヤンバルクイナがターゲットである。
そりゃそうだろうという気もするが、当初は大まじめな対策だったようだ。
マングースの移入は1910年とのこと。
血清もまだない時代に、ハブ問題は島の人々にとって非常に大きなものだったはず。
それをなんとかしたいという気持ちからの方策だったのだ。
持ち込んだ人物は、れっきとした生物研究者で、日本哺乳類学会の初代会頭の一人とか。
他国での前例を知ったうえでの導入だったとされるが、他国事例のモニタリング調査を検証するところまでは行われていなかったのでは。
いずれにせよ、素人の浅はかな考えではなく、プロが島民のことを思って行った対策だったことは間違いない。
しかし、それがものすごい大きな悪影響を自然環境に与え続けていることもまた事実だ。
もう110年以上にもわたって・・・

人間の浅はかな行動が外来生物問題の要因となることが多い。
映画で地球を救うためには人間を滅ぼす必要があるというシナリオを見たことがあるが、まさしくその通りと思う。
外来種を持ち込み、外来種問題として騒ぎ立てる人間。
持ち込まれた当事者に胸の内を語らせる本書の手法は、人間の愚かさをあぶり出すのに最適なやり方だったのかもしれない。
外来種問題に終わりはないと思う。
そもそも、どうなれば終わりなのか。
外来種が組み込まれた生態系ができあがっているところもあるはず。
外来種を除去することで、また新たな問題につながることもあり得る。
こうなっってしまった以上、無理に除去することが最善策とは言い切れないかもしれない。
困ったものだ・・・

(レビュー:休蔵

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
外来生物のきもち

外来生物のきもち

本書は詩人として活躍されている大島健夫氏が外来生物のきもちを代弁した読み物です。

そんな大島氏が外来生物になりきってその外来生物のきもちを想像しながら話を進めます。

なぜ外来生物がはるばる日本にやってくることになったのか、そして広く生息するようになったり、駆除されたりと、人間に翻弄されながら生きている今の外来生物のきもちを代弁します。

この記事のライター

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