だれかに話したくなる本の話

人生が息苦しい人に教えたい 江戸古典落語の登場人物が持つ周囲に愛される知恵

自分の考え方が周囲と距離があると感じたり、今、置かれている状況にあっぷあっぷしていたりはしていないだろうか。

そんな人にぜひ読んでほしい本がある。

『落語に学ぶ粗忽者の思考』(立川談慶著、WAVE出版刊)は私たちの「あるある」な悩みを、落語を例に出しながら、そんなに思いつめなくても大丈夫と説いてくれる一冊だ。

現代は、ちょっとでも逸れたことをすると批判を受けるし、いつも「人並」「普通」を求められる息苦しさがある。これまで、はみ出し者や負け組でも生きやすい世の中はあったのだろうか?

■あわて者だけど憎めない存在の「粗忽者」

実は、江戸時代の庶民社会は、多様性を許し、少数派さえも優しく受け入れる社会だったと著者で落語家の立川談慶さんは述べる。

それは、古典落語に登場するはみ出し者たちへの呼び名に表れている。
本書のタイトルにも使われている「粗忽者」(そこつもの)は「あわて者」「そそっかしい人」のこと。率直に言えば「ドジ」「間抜け」といったところだが、「粗忽者」にはどこか憎めず、応援したくなる人間臭い一面がある。

他にも「八っつぁん」は「パッとしない男」、「与太郎」は「馬鹿で呑気」というニュアンスがあったが、こうした短所がありながらも、江戸時代の「長屋」では愛され、大事にされていたようだ。

多様性があり、誰もが自分の居場所を持っていた。それが落語で描かれる江戸の庶民社会だった。

■目次を読んだだけでなんだか元気が出てくる?

本書は、一つ一つの悩みに対して談慶さんが一作の落語を交えながら回答していく形でページが進んでいく。

まず面白いのが目次だ。悩みに対して、すでに答えが簡潔に書かれている。「ああそうだな」と思える項目が多く、読んでいるとなんだか元気が出てくる。

人に嫌われているような気がしてしまう
 →「他人目線」での自己チェックに長けている

うまくいかないのは全部自分のせいだと思ってしまう
 →責任感が強いということ。それを良い方向に利用する

人と比べて劣っていると感じてしまう
 →能力の凸凹は愛すべきもの。「多様性」を形づくる大切な要素だ

自分が我慢すればいいんだと思ってしまう
 →忍耐強さがあり、トップの器が備わっているということ

的外れなことばかりして空回りする
 →「ズレた人」の存在があるから人類は進歩を続けられる

「忘れスイッチ」を押す
 →「忘れること」とは心を守る能力であり、リセットの好機

気になるものばかりだが、この中から1つピックアップして、その内容をご紹介しよう。

■人に嫌われているような気がしてしまう→「他人目線」での自己チェックに長けている

自分は嫌われているんじゃないか…。そんな思いから、積極的に人と接することができず、自己嫌悪に陥ってしまってはいないだろうか。

しかし、「自分は嫌われている」と思っているからこその強みがある。それは、周囲に対して謙虚さを持って振る舞えているということだ。「相手に不快な思いをさせているんじゃないか」と自分を律しているわけだから、誰かに迷惑をかけることも少ないはずである。

談慶さんは、「百年目」という落語を取り上げ、その主人公である治兵衛の振る舞いに寄り添いながら、「嫌われている」と思っている人は、自分自身を抑えることに長けた「ブレーキ上手」だとして、そういう自分を誇りに思ってほしいと述べるのだ。

「ひとり上手」「忘れスイッチ」などパワーワードが満載の本書は、今、自分の考え方や置かれている状況にあっぷあっぷしている人にとっての浮き輪代わりになるような一冊だ。
気持ちがふっと楽になる落語10選も掲載されており、落語に興味があるけれどまだ触れたことがない人にとっては入門書にもなる。

落語の世界に浸ると、どんな自分でも大丈夫なような気持ちになる。ぜひ、本書を通して、江戸時代の人情溢れる世界に飛び込んでみてはいかがだろう。

(新刊JP編集部)

仕事も人間関係も生き苦しい人のための 落語に学ぶ粗忽者(そこつもの)の思考

仕事も人間関係も生き苦しい人のための 落語に学ぶ粗忽者(そこつもの)の思考

『教養としての落語』の著者で落語家の立川談慶氏が、彼らを引き合いに出しながら、仕事の場でも人間関係でも、そしてひとりのときでさえも「生き」苦しさに苛まれているあなたが、今の自分のまま、心穏やかに生きていくための考え方、心の在り方を伝える。

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