【「本が好き!」レビュー】『毒薬の手帖』澁澤龍彦著
提供: 本が好き!澁澤文庫本再読レビュー、二冊目行きますよ~。
今回の『毒薬の手帖』は、『黒魔術の手帖』、『秘密結社の手帖』と共に、手帖三部作を形成している一冊です。
内容はというと、多くは文学上、歴史上の毒殺事件あれこれを集め、そこに登場する毒薬や歴史上の背景事情にコメントするという感じでしょうか。
澁澤は、「毒殺犯には女性が多い」と断じていますが、確かにそういう統計は私もどこかで読んだ記憶があります。
澁澤は、その理由について、女性ならではの美学性に求めていて、まあ、澁澤らしいと言えばらしいですよね。
私が読んだ本では専ら殺人手段が女性向きだからという説明でした。
つまり、男性が殺人を決意したならば、毒薬を用意するなどというまだるっこしいことをせず、刺殺、撲殺、扼殺、絞殺等の暴力的手段に訴える方が直截的だし、体力的にそれが可能だから。
これに対して、女性の場合は主として体力的問題から男性のような暴力的手段を採り辛く、勢い毒殺に走る場合が多くなるという説明でした。
もちろん、毒殺を試みたのは女性ばかりではなく、世には男性の毒殺犯も沢山登場しました。
中世世界などはあちこちで毒殺が試みられていたということで、そのターゲットになり得る者たちは戦々恐々としていたらしいですね(さもありなん)。
様々な毒検知手段、解毒剤、もちろん毒味役などを駆使して、自身の毒殺を回避しようとしたわけですが、本書で紹介されている毒検知手段や解毒剤は、今から見ると到底信頼に値しないものばかりだったそうです(そうだろうなぁ)。
話は横道にそれますが、この辺りの事情を楽しく書いた作品にピーター・エルブリンクの『毒味役』という作品があったことを思い出しました。
主人公はひょんなことから貴族の毒味役に取り立てられてしまう農民です。
毎日これまで食べたことも無いような豪華で美味しい食事を出され、毒味を命じられるわけですが、万一毒が入っているかもしれないと思うととても食事を楽しむなんていう気持ちにはなれず、どんどんやせ細ってしまうのです。
同僚などから手に入れた毒検知アイテムも色々登場するのですが、試してみたところまがいものばっかり!
という大変ユーモラスな作品でした。
本書でも毒味役を無効にする(というか他の者に毒の混入を気付かせない)手段なんていう物が登場しますよ。
例えば、ホスト役は肉を切り分けるのが慣例ですが、そのナイフの片側だけに毒を塗っておくとか。
毒が触れていない側の肉を自分が食べてみせて安心させた上で、毒が触れた方の肉をターゲットに食べさせるとかね。
章によっては本来書くべき内容が薄いものもありました。
例えば、『マンドラゴラ』の章なんて、肝心のマンドラゴラに触れている部分が少なく、専ら他の話で終わっていたり(澁澤自身その点は気になっていたようで、文庫版あとがきでその点を謝し、別の作品で補遺したと断り書きをしています)。
この本が出た当時は目新しく、斬新な内容だったのだろうと思いますが、澁澤らが開拓した結果、その後、同様の話はあちこちで目にするようになっており、今読むと、同じような話の繰り返し、既に語り尽くされている内容がどうしても目についてしまい、当時の衝撃は相当程度薄れてしまっているのは仕方がない所なのでしょう。
とは言え、この手の本を初めて読むという方にはなお面白く読めるのではないかと思うのですが……(但し、書かれていることは話半分に読んだ方が良いかもしれませんが)。
(レビュー:ef)
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