【「本が好き!」レビュー】『ルポルタージュイスラムに生まれて:知られざる女性たちの私生活』読売新聞中東特派員著
提供: 本が好き!昨年12月に、ミネルヴァ書房から出版された、「イスラムに生まれて」を読んでみました。
読売新聞の中東特派員が、現地で聞き取った生の情報から、イスラムの女性たちが、どんな暮らしをしているのか、かなり細かく、具体的に報告してくれています。
実際僕らは、イスラムの女性がどんな生活をしているか、ほとんど知らないことを、まず認識しておく必要がありそうです。
この本を読んでいても分かるし、インターネットの記事を見ても、イスラムの女性が生で登場することは、滅多にありません。
それもそのはずで、この本を読んでいると、イスラムの女性は、男性に守られている事を条件に、ほとんど表に出てこない。
この本では、第1章が「子供」となっており、まずは生まれたときから、男の子であることが求められる。
昔の日本と同じ、男の子が常に有利な社会になっていて、女の子はイスラムの教えに従って、表に出ることを嫌がられる。
男と女は子供の時から世界を分けられ、男は女を支配して当然で、結婚も離婚も相続も、あらゆる権利が男性有利にできている。
その後も本の内容は、第2章「若者、おしゃれ」においても、第3章「男に負けない」、第4章「少数派の苦悩」においても、女性が如何に努力しても、男性優位の社会はなかなか変わらない。
第5章「恋愛と婚活」、そして第6章「結婚」にいたるまで、女性は人権を無視されたままで、男の一方的な都合に翻弄される。
こんなことが現代に起きているなんて、信じられない気もするが、それがイスラムの教えから来ているとすれば、解決は難しい。
実際に現代では、多くのイスラム諸国においても、女性の権利を見直す動きがあって、変わって来ているらしい。
数年前までは、女性は車の免許も取れなかった国でも、事情は変わって、免許が取れるようになっているとも言う。
しかし問題は学歴も無い貧しい人たちで、彼らは男も女も、イスラムの教えを何よりも大切にするので、事はやっかいだ。
第7章「妻たち」から、第8章「仕事」、第9章「母、晩年」まで、イスラムの女であることによる悲しみは、果てしなく終らない。
この本ではそんな日常が、これでもかこれでもかと描かれて、イスラムの素養がない読者には、「なんでそこまで」と思わされる。
妻を4人まで持てると聞くと、ねたましく思う男もいるだろうが、そのためには、経済的不自由なく4人を均等に愛さなければならない。
女性が頭に巻くヘジャブどころか、目しか出さないニカブや、その目の部分さえ網で隠して見えなくする、ブルカなどを見れば、それだけでも、女性が不自由な生活を強いられているのが分かる。
こんな制度は、古い時代には何か有用な意味があったとしても、現代では、男にとっても女にとってもやっかいな制度だろう。
すべての人を平和に対等に扱おうとするイスラムが、事女性に関して、これほど不合理な扱いをするのは、なぜなのかと訝しむ。
所詮イスラムの人間ではない僕らは、こうしてルポルタージュを読んで、少しはわかった気になりながら、自分の社会を振り返ったりする。
自分がもしもイスラムの人間であったなら、と考えるのは恐ろしく、文化が違うと言うことが、どれほど大きな事かが思いやられる。
この本を読んだことで、少しはイスラムの文化を知り、かの国の女性たちに心を馳せたことが、この本の力なのだろう。
イスラムの女性をルポルタージュで描いた、この本を読むことで、あらためてイスラム全体のことが、分かると同時に、世界の歴史における女性の権利のことも、分かってきた気がする。
個人の感情を抜きにした書かれた、ルポルタージュなのに、読み終わって心に残るのが、人間の悲しみだったりするのが秀逸です。
(レビュー:イソップ)
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