だれかに話したくなる本の話

白身魚のサケに色がついているのはなぜ?植物と魚の意外な関係

多くの植物は、毒を持っている。
芽や成長に必要な部分を食べられないために、いろいろな仕組みや工夫を凝らしているのだ。その一つの方法が、有毒な物質を身につけること。

一方、植物たちがつくり出す物質は有毒なものだけではない。人間の暮らしや健康長寿に貢献する可能性を秘めているものもあるのだ。

『植物はなぜ毒があるのか』(田中修、丹治邦和著、幻冬社刊)では、過去10年の食中毒被害データを中心に、生き残るために植物がつくり出すさまざまな毒と特徴を紹介。また、古より植物の毒を薬に転じてきた人間の知恵と最新の医学情報まで、有毒植物と人間の関わりを解説する。

■サケの身とアンチエイジングの意外な関係

100歳を超える長寿の人は、何を食べているのか。長寿の人が共通して食べている食材として、豚肉や鶏肉、豆腐やキャベツなどが挙げられるが、その中の一つに「サケ(鮭)」がある。

もしサケが長寿食品だとしたら、それはなぜなのか。その秘密は、本来は白身魚であるサケが身につけている「アスタキサンチン」と呼ばれる色素にあるという。サケの身が薄い紅色なのは、このアスタキサンチンという色素の色である。

でも、この本のテーマは「植物」である。サケの身の色と植物にどんな関係があるのか。
本来白身魚のサケがサーモンピンクなのは、植物由来の色素の色で、サケがオキアミという海に浮遊している小さな動物性の生き物を食べることでその色素が体に入る。このオキアミは、植物の一種である緑藻類のヘマトコッカスを食べて生きている。ヘマトコッカスは、海の中にいる緑藻類で、本来は緑色だが、栄養の不足や渇水、強い光や高温などのストレスを抱えると、アスタキサンチンをつくって真っ赤になるのだそうだ。

アスタキサンチンは、ヘマトコッカスがストレスに抗ってからだを守るためにつくり出す物質。サケの身の薄い紅色は、ヘマトコッカスがつくるアスタキサンチンがオキアミを介して伝わってきたものだ。

人間の体内では、紫外線にあたったり、いろいろなストレスを抱えると、「活性酸素」という物質が発生する。活性酸素は、からだの老化を速め、多くの病気のきっかけとなることで知られている。シミやシワ、白内障の原因になったり、ガン、心疾患、脳血管疾患のきっかけになるともいわれている。

そのため、活性酸素の害を消去するための「抗酸化物質」が必要になる。抗酸化物質の代表は、ビタミンCとビタミンE、ポリフェノールやカロテノイド。アスタキサンチンはカテロイドの一種である。アスタキサンチンの抗酸化の力は、ビタミンEの数百倍と言われているため、ストレスに対する強い抵抗性を発揮する。人の皮膚にも効果が確認されており、アスタキサンチンを摂取していると、紫外線による日焼けが起こりにくい、肌が潤いを保つという実験結果も出ているという。

植物がつくり出す物質には、私たちの健康に役立つものも多いが、有毒な物質ももちろん存在する。植物の毒について、私たちとの関わりを楽しく知ることができる1冊だ。

(T・N/新刊JP編集部)

植物はなぜ毒があるのか 草・木・花のしたたかな生存戦略

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トリカブトのようなよく知られたものだけではなく、じつは多くの植物が毒をもつ。例えばジャガイモは芽のみならず、未熟な状態や緑化した状態で毒をもち、毎年食中毒被害がおきる。それらは、芽や、成長に必要な部分を食べられないための植物のしたたかな生存戦略だった。過去10年の食中毒被害データを中心に、生き残るために植物がつくり出す様々な毒と特徴を紹介。また、古より植物の毒を薬に転じてきた人間の知恵と最新の医学情報まで、有毒植物と人間の関わりを楽しく解説。

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T・N

ライター。寡黙だが味わい深い文章を書く。SNSはやっていない。

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