センスは必要ない。ビジネスを飛躍的に加速させる「デザインアート思考」の本質とは
変化が激しい現代において、ビジネスを進めるスピードはより加速している。
経営層だけでなく、その下で働くビジネスパーソンも、自社の経営やプロジェクトに関わる課題の発見やその解決につながるアイデアを求められるようになったが、そこに戸惑いを覚えている人も少なくないだろう。
どうすればクリエイティブなアイデアを生み出すことができるのか。そんな時は2つの視点で考えることが多い。1つはマーケットの「ニーズ(要求)」と、クリエイターの「ウォンツ(要望)」だ。この2つの視点がかみ合えばベストなのだが、かみ合わないこともある。
ニーズにもウォンツにも寄りすぎずバランスを取るにはどうすればいいのか。
それを解決してくれるのが「デザインアート思考」という思考プロセスだ。
『デザインアート思考 使い手のニーズとつくり手のウォンツを同時に実現する10のステップ』(OCHABI Institute著、翔泳社刊)には、次のように説明されている
「ニーズ」と「ウォンツ」の双方を重視しながら、マーケティングによって本質的な課題を発見し、プランニング(企画立案)によって創造的な解決策へたどり着くことを目指す論理的思考法。(p6より引用)
この思考法は、プロジェクトが上手く進まなかったり、なかなかひらめきが出てこないというような局面を打開してくれる。ビジネスパーソンの大きな武器になるのだ。
■デザインアート思考は「クリエイティブをロジカルに実践する」
「デザインアート思考」とは、近年話題の「デザイン思考」と「アート思考」を重ねた思考法である。「アート」という言葉のイメージから、クリエイティブのセンスが必要なのではないかと思う人も少なくないだろう。
だが、そうではない。デザインアート思考とは、クリエイティビティーを刺激し、課題解決のアイデアをロジカルに創造するための思考法。ひらめきや勘が働くのを待つのではなく、ロジカルに考えることでアイデアを生み出していくのだ。
また、もう1つの特徴が、コミュニケーションでは絵や写真といったビジュアルを使うという点だ。
思いついたアイデアを実際に描いて視覚化することで、いくつものアイデアをディスカッションのテーブルに載せることができる。そして、チームメンバーやプロジェクト関係者と具体的なイメージを共有でき、情報の偏りを解消できるという。
円滑にコンセンサスを得るため、そしてアイデアを提案する相手に具体的なゴールのイメージを伝える上でも、ビジュアルは効果的だ。
■デザインアート思考で最も大切なのは「ビジョン」
デザインアート思考のプロセスは2つの円から成り立つ。
1つは「マーケティング・サークル」、もう1つは「プランニング・サークル」だ。
「マーケティング・サークル」はカスタマー(顧客)のニーズを見つけるための思考サークルで、カスタマーの求める価値へのインサイト(洞察)を導き出していく。 一方の「プランニング・サークル」は、クリエイター(発案者)のウォンツをビジョンに高めるための思考サークルで、クリエイター自身が心から「実現したい世界」を重視する。
この2つの円の中で最も大切なのがプランニング・サークルの中心である「ビジョン」である。
どんな優れた商品であっても、人々の共感を得ることができなければ大勢の注目を集めることは難しい。カスタマーからの共感や賛同、支持を得るためにも、クリエイターの意志をビジョンとして具体的にイメージすることが大切なのだ。
「自分は大きなビジョンは持てない」と思う人もいるだろう。しかし、ビジョンを掲げることは誰でもできる。「生活の不自由をなくす」「人と人をつなげる」これだけでもビジョンになるのだ。大事なのは、自分自身のビジョンを認識し、それをモチベーションにつなげていくことだ。
その上で、この2つの円をアジャイルしながら、プロジェクトを進めていく。アジャイルとは「素早い」という意味を持ち、デザインアート思考では「バランスを取るためにフットワークを軽く、素早く思考プロセスを往来する」と言う意味で使われている。
本書には「デザインアート思考」で課題を解決していく10のSTEPとして、このプロジェクトの進め方が解説されているので、ぜひ参考にしてほしい。
また、プロジェクトを進める中で「このビジョンで本当にカスタマーの支持を得られるのか」「ビジョンに近づくことができるのか」と迷ったときは、SDGsに沿うかどうかを判断基準にしよう。
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本書には他にもクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏と御茶の水美術専門学校校長の服部元氏による対談が収録されており、デザインアート思考についての理解を深めるのに役立つ。
私たちは常に正解がないものと対峙しているが、だからこそ、クリエイティブの力が必要になる。デザインアート思考はビジネスを飛躍的に加速させるための一手になるはずだ。
(新刊JP編集部)