だれかに話したくなる本の話

2021年のキーワード 「社会の分断」が描かれた小説4作

『悪霊』(ドストエフスキー著)

1月6日に起きたドナルド・トランプ米大統領の支持者らによる連邦議会議事堂の占拠事件は、「暴力を扇動した」責任を問うという理由でのトランプ氏への弾劾訴追が下院議会で可決、占拠に参加した支持者らが次々に逮捕されるなど、1月20日にはジョー・バイデン氏の大統領就任式が予定されるなかで収まらぬ余波が続いている。

選挙の枠組みを無視しての権力奪取の企て、という意味で、メディアでは、今回の件をトランプ氏による事実上の「クーデター未遂」とする報道が目立つ。アメリカという「民主主義の総本山」ともいえる国でこのようなことが起きたことに驚くとともに、アメリカ社会に決定的に生じている分断をまざまざと見せつけられた感がある。

悪霊(上)

悪霊(上)

1861年の農奴解放令によっていっさいの旧価値が崩壊し、動揺と混乱を深める過渡期ロシア。青年たちは、無政府主義や無神論に走り秘密結社を組織してロシア社会の転覆を企てる。――聖書に、悪霊に憑かれた豚の群れが湖に飛び込んで溺死するという記述があるが、本書は、無神論的革命思想を悪霊に見たて、それに憑かれた人々とその破滅を、実在の事件をもとに描いた歴史的大長編である。