だれかに話したくなる本の話

神秘体験ではなかった 金縛り・体外離脱が起きるメカニズム

身体感覚が不安定になり、自分自身の存在そのものが不安定になる。というのは、思春期特有の問題だ。

『こころと身体の心理学』(山口真美著、岩波書店刊)の著者の山口真美氏も、思春期は自分ではどうしようもない身体の違和感という問題を抱え、金縛りや体外離脱も経験したという。

■金縛りも体外離脱も科学で解明されている

ただ、かつては「霊のしわざ」と言われることもあった金縛りや体外離脱は、今では科学的にも解明されている。

本書では、金縛り、絶対音感、摂食障害、全盲者がつくりあげる空間世界などの脳科学や様々な事例をもとに、第一線の科学者である山口真美氏が自身の病とも向き合、今を生きるための身体論を紹介する。

思春期には、さまざまな身体の悩みが生じる。身体の急速な成長に心が追いつかないことがその原因の一つで、心と身体の不一致に悩むことが多い時期でもある。この不一致のために起こる不思議な現象のひとつが、金縛りだ。

金縛りは、寝入りばなに起きるのが特徴だという。睡眠は通常、浅い眠りから徐々に深い睡眠へと移っていく。しかし、金縛りが起きるときは、いきなり深い睡眠に入ってしまうのだという。身体は寝ている状態なのに頭はさめている。そのため、身体が脳の言うことを聞かない状態として知覚されるのだ。

これはストレスや夜更かし、疲れなどによって、睡眠のリズムが狂うことによって、生じる現象だという。

また、寝ているときに身体が天井まで浮かび上がり、寝ている自分を見ている、という身体から抜け出す体外離脱も、現在では脳のしわざであることがわかっている。

脳の側頭と頭頂の接合部分の右角回と呼ばれる部位が刺激されると、体外離脱が生じることが、ジュネーブ大学でのてんかん患者の治療によって報告されている。体外離脱には脳の特定部位である「側頭頭頂接合部」が関与している。側頭とは、顔や表情を見出したり、言語や記憶・聴覚に関わるところであり、目の前の世界を実感し認識するための感覚が関わっている部位。一方、頭頂は、空間に関わり、腕を回したり歩いたりといった身体動作にも関係している。

このことから、体外離脱には脳が関わっていること、感覚・認識と身体動作という2つの脳の働きの接点が、体外離脱の原因になっている。脳が身体のさまざまな感覚のとりまとめに失敗すると、体外離脱という不思議な状態になるのだ。

思春期特有の心身を持つ子供のいる親や思春期真っ只中という方は、本書を読んでみると、なぜこういう状態になっているかがわかるはず。自分の身体とうまく付き合っていくためにも参考になる1冊だ。

(T・N/新刊JP編集部)

こころと身体の心理学

こころと身体の心理学

SNSやバーチャルリアリティが普及し、身体のとらえ方は多用化している。一方でリアルな痛みは自分の存在を実感させ、他者の痛みにも気づかせてくれる。金縛り、絶対音感、摂食障害、全盲者がつくりあげる空間世界―脳科学や様々な事例をもとに、第一線の科学者が自身の病とも向き合って解説した、今を生きるための身体論。

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T・N

ライター。寡黙だが味わい深い文章を書く。SNSはやっていない。

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