【「本が好き!」レビュー】『語りなおしシェイクスピア 1 テンペスト 獄中シェイクスピア劇団』マーガレット・アトウッド著
提供: 本が好き!舞台芸術監督だったフェリックスは、ある日突然、部下トニーの裏切りにより、職を奪われた。演出に心血を注いでいた『テンペスト』は、発表間際だったが、演じられることもなくなってしまった。
失意のどん底にあったフェリックスは、9年後、地元のオンライン紙の、「フレッチャー矯正所」で〈文学を通じてリテラシーを〉というプログラムの代講者を求むという求人募集記事に応募した。
面接者は、このプログラムを外部から監督している大学教授のエステル。彼女は、フェリックスのことを知っていたが、彼の匿名で働きたいという希望を受け入れてくれた。
フェリックスが服役者たちにシェイクスピア劇の指導を始めて3年、矯正所での演劇指導を視察に来るという。しかも、視察に来るのは、フェリックスを裏切って監督の座を奪い、政治家に鞍替えして大臣にまでなっているトニー。 いつか必ず復讐することだけを思い描いていたフェリックスは、これを絶好の機会と考えた。演目は、もちろん、『テンペスト』。
『テンペスト』は、弟の裏切りによって国から追放され、孤島で暮らしているミラノ王が、復讐のために魔法で弟を島におびき寄せる。この「島」はまさに牢獄に他ならず、『テンペスト』の舞台設定ならびに復讐劇という内容は、表舞台から追放され矯正所を働き場とし復讐を胸に秘めているフェリックスの現状とまったく同じという、なんとも凝った構成となっている。
また、フェリックスの指導を通じて、『テンペスト』の解釈が語られているのだが、これまた、面白いのだ。こういった講義なら、私も受けてみたい。劇を発表したあとの、「・・で、そのあとどうなる?」と各班に考えさせているのも、いいなあ。
アトウッドというと、『侍女の物語』を代表として、暗くて重い、ちょっと浮世離れしたような話ばかり読んできたが、この作品は、まったく印象が違うものだった。こういうアトウッドも、いいなあ。
(レビュー:ぷるーと)
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