だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『分裂国家アメリカの源流』水川明大著

提供: 本が好き!

ドル紙幣に描かれている人物のうち、1ドル紙幣のアメリカ合衆国初代大統領のジョージ・ワシントン、5ドル紙幣の「奴隷解放」を宣言した第16代大統領のエイブラハム・リンカーンはよく知られていますが、10ドル紙幣の人物はだれか? 口絵には三枚のドル紙幣の写真が掲載されています。

この問いから、筆者は書き始めています。この颯爽とした顔つきの人物は、大抵の日本人には馴染みがないと思われ、評者もその一人ですが、彼の名はアレグザンダー・ハミルトン。アメリカ建国の父の一人であり、独立戦争時には、ワシントン総司令官の右腕として活躍し、戦後は、合衆国憲法の制定に大きく貢献、ワシントン政権における初代財務長官を務めた人物です。

ハミルトンは、1755年に西インド諸島ネーヴィス島でスコットランド貴族の非嫡出子として生まれ、母親と早くに死別、孤児となったが、友人と親戚の支援で、ニューヨークに移り、17歳でキングス・カレッジ(後のコロンビア大学)を卒業し、1775年に始まった独立戦争に参加、砲兵隊大尉として活躍し、77年には、ワシントン総司令官の副官となります。83年9月に、独立戦争は終結します。

その後、1789年に、ワシントンが初代合衆国大統領に就任し、ハミルトンは初代財務長官になります。国務長官はトーマス・ジェファーソンであり、この二人は、のちに連邦派と共和派の対立の元になります。1793年にジェファーソンが、95年にはハミルトンがそれぞれ辞任します。そして、ワシントンも96年には告別演説をして退任します。この告別演説の草稿の作成には、ハミルトンが協力したとされています。

ハミルトンの晩年は、息子フィリップ・ハミルトンの決闘による死(1801年11月)の3年後、自身もアーロン・バーと決闘し、その翌日死去します(1804年7月12日)。49歳でした。荒々しい、建国時代のアメリカ合衆国には、現在の分裂国家の源流があるというのが、筆者の見立てですが、いくつかの例が示されています。

①建国期に、イギリスからの独立を宣言した、13州はそれぞれ主権をもった「邦」であり、このことが、のちの連邦政府と州権との対立の源流となっている。

②1788年に、合衆国憲法が発効されてから、およそ70年後に開始された「南北戦争」は、内戦とされているが、これは北部史観によるもので、州間の戦争という別の表現があり、連邦が守られた結果となった。

③しかし、アメリカの国内は依然として「一つのアメリカ」は完成に至っていないので、常に分裂の要素をはらんでいるし、現代の政治指導者にとっても、人々に統合をリマインドさせることが重要な使命となっている。

現在のトランプ大統領は、国家の統合どころか分断を煽っているようにすら見えるが、このような人物が再選されるかもしれないことこそ、アメリカという国家の危機の深刻さを表している。その根源は、220年前にワシントンがその危険性を指摘した「党派精神」にあるとしています。至言だと思います。

(レビュー:くにたちきち

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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分裂国家アメリカの源流

分裂国家アメリカの源流

アメリカ分断の歴史は、ここから始まっていた…!

トランプ政権発足後、アメリカ合衆国の分断傾向はさらに顕著になりつつある。
しかし、そもそもアメリカは、建国以来、分裂の要素を持ち続けている国なのだ。

本書では、現代のアメリカ合衆国へつながる源流を探るべく、
「建国の父」の一人である天才政治家、アレグザンダー・ハミルトンに光を当てながら、
合衆国創世記から南北戦争までの大きな歴史の流れを描きだす。

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