だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『メグレの拳銃 (1979年) 』ジョルジュ・シムノン著

提供: 本が好き!

大きな事件のない日は、メグレはランチは自宅で食べるのが常なのですが、ある日、夫人から電話がかかってきて、相談事があってメグレに会いに来たと言う若い男が自宅で待っているので、何時に帰るのか聞いてきます。すぐ帰るつもりのメグレでしたが、地方から出て来た昔の部下の誘いで一杯ひっかけてから帰ってみると、男は既に立ち去った後で、メグレがアメリカ訪問をした際(第三十二作『メグレ保安官になる』)にFBI職員から記念にもらった拳銃が、うかつにも出しっぱなしにしてあったのですが、無くなっていました。若い男が持ち去ったことは間違いありませんが、何の目的でしょうか。メグレ夫人はその男の思いつめた様子から、自殺するのではないかと心配するのですが、メグレは自分の拳銃で何か事件が起きるのを阻止できるのでしょうか。

警察官が拳銃を盗まれるという設定は珍しくありませんが、本書が変わっているのは、いかにもこのシリーズらしいのですが、メグレ夫人が盗んだ若者をまったく悪人と思っていないことと、メグレがそれをそのまま受け入れていることです。この夫婦のお互いの信頼関係がないと、これは成り立たないのですが、それはシリーズもので積み上げてきた暗黙の了解ということなのでしょう。事実、途中からは、メグレは自分の拳銃を取り返すというよりも、この若者にいかに道を外させないようにするかに全力を注いでいるように見えます。そのために、彼を追いかけて、ロンドンにまで行くのです。

家庭や収入には恵まれてはいなくても、真面目に生きている若者に対するメグレのシンパシーというのは、本書でも語られているように、父親を早くに亡くし医学の道を諦めて警察官になった自身の苦労から来ているものが大きいのですが、本書はそれが前面に出た作品です。ですので、盗まれた拳銃とは無関係の殺人が起こるものの、そちらにはあまり焦点が当たっておらず、いつものシリーズ作とは、ちょっと変わったテイストに仕上がっていますが、これはこれで楽しめます。

なお、このシリーズで、フランスの夫婦としてありえないぐらい変わっているのは、メグレ夫人がメグレのことを名前で呼ばないで「メグレ」と呼んでいることで、メグレも夫人のことを名前で呼びません。それで、メグレの本当の名前はずっと分からないままだったのですが、本作では、それがジュール・ジョゼフ・アンテルム・メグレという立派な(?)ものであることも明らかにされています。

(レビュー:hacker

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!

この記事のライター

本が好き!

本が好き!

本が好き!は、無料登録で書評を投稿したり、本についてコメントを言い合って盛り上がれるコミュニティです。
本のプレゼントも実施中。あなたも本好き仲間に加わりませんか?

無料登録はこちら→http://www.honzuki.jp/user/user_entry/add.html

このライターの他の記事